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Ⅴ チャイムうるさい!⑩

ピンポーン このマンションはオートロックだ。 なのに。 ピンポーン 玄関のチャイムが鳴っている。 インターホンのカメラをONにしたのは、ほとんど無意識だった。 鳴る筈のないチャイムの正体なんて、どうでもよかった。 それなのに…… これは小さな運命の悪戯で。 運命の悪戯が起こしたさざ波は、みるみるうちに津波となって押し寄せる。 心臓が大きな津波になって、うねり、早鐘を打つ。 『突然押し掛けて申し訳ございません』 カメラに映る人影は。 『佐々城さん、開けてください』 なぜ、お前がいる。 もう会う事もない。 会う筈もない。 会う理由もない。 (お前がなぜ!) 『開けてください!佐々城さん!いるんでしょう』 ドンドンドンッ 叩き壊しそうな勢いで、今度はドアが鳴っている。 『佐々城さん!開けてくれないなら、こちらから開けます』 「なに言って」 玄関は鍵を掛けている。 開けられる訳ない。 『やっぱりいましたね。佐々城さん。開けます』 開く筈のないドアが…… ガチャン 開いた。 「待て」 この姿を見られるのはまずい。 人ならざる姿は。 「各務ッ」 「佐々城さん!」 間一髪だった。 どうにか人の姿に変化した直後。 「すみません。どうしても、我慢できなかった……」 俺は、なぜ…… 各務に抱きしめられているんだ? 俺は、振られたんだろう。 お前には恋人がいて。 お前の人生にもう俺は必要ない筈だ。 「何度も携帯に電話しました」 「……すみません。体調を崩して寝込んでいたもので」 「本当ですか」 答えない。 嘘だとバレている質問に答えるのは無意味だ。 「会社にも電話しました」 「……そうですか」 彼の吐息が耳朶を犯した。 「見事に騙されましたよ。玉石ルフラン株式会社は架空企業ですね」 「えぇ」 それがバレたところで、お前はもう手に入らない。 「一緒に来てください」 「ちょっ、各務さん。今すぐですか」 「そう。今すぐです」

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