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第1話
「青桜 …?」
自分の隣にあろう温もりを探して手を伸ばす。
暫し手を這わしダブルベッドの底にあるはずの温もりがない事に気付いた。
ああ…今日は午後から仕事だと言っていたな…
僕、『水守 優 』は気怠い身を起こす。
青桜とは公私ともに僕の可愛いパートナーの事。
公私と言っても僕は歌手と俳優の二足の草鞋を履いていて少し前まではモデルもやっていたからそちらの方での公私。
青桜は大学に通いながらモデルをして、更に舞台役者を目指し今は小さな劇団に所属してる。
僕は今日はオフ。
僕たちの付き合いは今年で4年目。
高校の先輩と後輩と言う有りがちなシチュエーションだ。
軽音楽部の僕が部室の窓際でギター弾いてたらサッカー部だった青桜の蹴ったボールが窓ガラス破って入ってきたのが知り合うきっかけ。
野球の硬球じゃあるまいし、普通はそうそう割れないそうだけど運が悪かったと周りの大人は言っていたっけ。
まぁ、僕は額をガラスの破片で切って流血沙汰になったものだから駆けつけた保険医に連れられてそのまま病院に連れてかれた。
僕の近くで僕より多分蒼白な顔で立っていたのが今思えば『桜木 青桜 』、その後僕の大切な存在になる青桜だったんだよね。
青桜は学生時代からもの凄く僕の世話を焼くのが好きな子だったけど、デビュー前から本当に僕を献身的に支えてくれた。
僕が活動するのに東京に出た方が良いと、自分が進学する大学を東京 にしたから一緒に住もうと言いだしたのも青桜だった。
僕は顔が良いらしく、芸能事務所から声をかけられる事はあったものの、その顔の所為で自分のしたい仕事をさせてもらえなかったり、作りたい音楽をねじ曲げられる事が多々有り、中々デビュー出来ずにいた。
まぁ、そんな時に俳優の大御所さんに声を掛けられ可愛がってもらい、俳優からの歌手デビューを果たしたんだけどね。
ん?僕の話はもう良いって?
良かった。僕は社交性がある方じゃないからね。
さて、と。
今日は早目に帰ってくると言う恋人の為に買い出しでも行こうかと本格始動を試みる。
青桜の為なら体に鞭打ってでも起き上がれる自分に苦笑する
そのくらい自分の寝汚なさには自信があった。
カーテンを開け、大きな窓から日の明かりを取り込む。
昨夜の青桜との痴情を思い起こすシーツやタオルを足で寄せ、今寝ていたシーツも剥がそうとした時、ベッドサイドに置いてあったタブレットの画面が光った。
何気なく、持ち上げる。
パスの掛かってないそれは見ても良いと言う事だと僕は認識している。
本気で青桜が見せたくないパーソナルスペースを侵そうとは考えていない。
開いた画面には書棚アプリの新着お知らせが入っていた。
僕も本は読むがどちらかと言うとデジタライズされたものよりは文庫派だったので興味もありブックアプリを開いてみる。
ん?
【Dom/subユニバース】?
聞き慣れない単語にクリックする。
『オメガバースに似たDom/Subユニバース(ドムサブユニバース)というジャンルがあります。
ざっくりいえば人間の性別が男女のほかにDominant (SMでいうS),Submissive (SMでいうM)に分かれている世界です。』
自分の眉がピクッとするのが分かった。
そしてその文字に誘われる様に僕は慣れないタブレットの画面をゆっくりと操作していった。
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