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◆1 ep.1 初体験

僕は供物として、ヒトでは無い生き物に捧げられる事になった。 昔は和平と友好の証としてヒトがお嫁に行くことは珍しくない話だったみたいだけれど、今はただの生殖の問題としてだ。獣人は男体ばかり存在していて、他種の雌の身体を使わないと子孫が残せない。力が弱く従順なヒトは人気で、貧しさから売られる者が現在でも一定数存在している。僕の生家はそれなりに財を成してはいるけど、男のくせに子供を孕める身体に生まれれば関係ない。産める男体は希少だし、獣人はヒトに比べて身体が大きいから女体に比べて丈夫な男体も好まれる傾向にあるんだとか。男体は着床率が低いらしいけれど。 と、色々考えてみた所で自分の置かれた状況についての恐怖は無く、ただ目の前のオオカミの恩恵を受けた生き物に触れてみたいと思っただけだった。腕とか思っていたよりフサフサじゃないけど、銀色の毛並みがどんな感触なのか気になる。 それに、ただじっと見つめていても気難しげに寄った眉間と鋭い眼差し、口数の少なさから考えている事がよく分からないので、触ってみて判ったら良いのにと思う。自分の貰われ先の主人がどんな人物なのか。 「・・・疲れたか?」 「いいえ。大丈夫です。」 移動に時間は掛かったものの、獣人が住む区域には初めて来たし、人種だけじゃなく建物や植物、目新しい物が多くて興味深かった。家の中も簡単に案内してもらえ、思ってた以上にきちんとした個室も用意されていたし、待遇は良さそうで安心した。気になるのはこの旦那様以外、住人の気配が無い事ぐらいだ。奥方は居ないのだと知っているけれど、愛人は居たっておかしくないのに。 獣人は好色の気があると承知している。受精率の問題と獣の血筋の本能から何人も囲っているのが普通だと思っていた。これまでの自分への態度や、今も書類ばかり見ている視線から図る限り、この方は無愛想で堅物のようだけど。 「何か、サインをしなければならない書類とかはありますか?」 「これは後でいい。・・・エリ、下着を取りなさい。」 「はい。」 撤回。堅物では無かった。導かれ、下衣と下着を脱ぎ、旦那様に背を向けて立つ。 そっと様子を伺うと、大層な箱からお洒落な注射器みたいなものを取り出した。 「お前はまだ此処を使った事が無いだろうし、どう見ても拡げないと挿入らないからな。」 「っ、あ・・・、っ・・・、」 そう淡々と告げられながら、ぐっとお尻を掴まれ、無遠慮に晒された場所に生温かい液体が入ってきた。 「取り敢えずこれで悦くなりなさい。」 催淫薬の類か、押し込まれる液体の量に比例して熱くなっていく身体を抱き寄せられ、ベッドに転がされ、太い指が一番熱いと思う場所に入ってくる。この場所がどういう用途で使われるかは理解していたけれど、普通じゃない身体が恐ろしくて自分でも碌に触ったこと無い場所なのに、すんなりと。 指先を少しずつ入れられては引かれ、次第に数を増やされ、掻き回されて、ゆっくり蹂躙されていく。 「ああ、ちゃんと濡れるんだな。」 大した感嘆を込めずに落とされたその指摘通り、薬は足されていないのに粘着質な水音が増していく。発情期が来た訳でも無いのにこんな風になるなんて知らなかった。ぐちゃくちゃ音を立てて指を呑み込む場所を観察のようにじっくり見られているのも恥ずかしい。でも僕に拒否権は無いし、力で敵う訳も無く抵抗も出来ないし、何より慎重な指の動きがもどかしくてもっと乱暴に扱って欲しくなってきた。 こんな簡単に身体の常識が変わるなんて、やり過ごせる訳が無い。身体が震え、肩で息を吐く事しか出来なく、暫くして指を抜かれ、四つん這いにさせられても身じろぎしか出来なかった。 「んっ、っ、あ、あ・・・!!」 ずん、と圧迫感を伴って、指とは比べ物にならないものが入ってくると、身体全体を重く突かれると同時に、びゅる、と僕は射精してしまった。 「ひ、あっ、あ・・・!!」 「お前は此処が好きなんだったな、」 「っ、だめ、苛めないで、・・っ、あ・・!あン・・、」 「ゆっくりしてやるから好きなだけ達しなさい。」 指を挿れられてた時に見抜かれていた、自分が弱い場所を外側からも手で押され、中はゆっくり奥の方まで打ち付けられては引かれて、ひどく気持ちが良い事しか分からない。でも挿れられてる所からぶちゅぶちゅ水音がするのが恥ずかしいのにシーツを掴むのが精一杯で耳は塞げず、足も旦那様の重みで動かせない。 どんどん僕の中で旦那様の質量が増し、多分もう何をされても気持ち良いのにダメな所ばかり突かれ、撫でられ、身体がビクビク震えた。 「あっ、ン・・、っあ・・・、ふっ、」 「エリ、出すぞ。」 その言葉と中の圧迫感に反応して、ぎゅう、と中が勝手に締まった。精液を注がれながら腰を掴まれ押し付けられ、奥に塗り込まれて、いっぱい注がれたお腹の奥が重くてどろどろしている。まだ僕の中を行き来する旦那様の硬さと擦り付ける動きに反応して、また自分も射精してしまい、旦那様の指に絡め取られた。 「いやらしい身体だな。」 「っ、あ・・、ごめんなさい・・・。」 「いい子だよ、お前は。まだ気持ち良くなれるだろう?」 甘い響きの恐ろしい言葉は終わりを告げてはくれず、身体の向きをひょいと変えられ、膝に乗せられて。腰が浮いた姿勢のまま、ゆっくり出し挿れされる。そして奥からどろりと伝い落ちてくる精液を感じながら、また奥まで塞がれて。 「あ、んんッ、はっ・・ぁ・・、」 自分でもただ、もっと気持ち良くなりたくて、腰を深く沈めて旦那様の首元に縋った。 すぐに腰を掴まれ、さっきまでより乱暴に旦那様が僕の中を行き来する。 その恥ずかしい音が気にならなくなるまで、自分も散々達しながら僕は中を犯され続けた。 結局、自力じゃ動けなくなるほど行為に及び、湯浴みがてら中の精液を掻き出してもらったものの、まだ熱を持っている気がするお腹を、さす、と僕は撫でた。 「まだ孕ませる気は無いから、心配なら薬を飲みなさい。」 「お薬、気持ち良すぎて恐かったです。」 「避妊薬に快楽は伴わないがな。・・・性交を好きになればこれから楽に暮らせるだろう。」 傍には居てくれるものの、旦那様は視線を逸らしたまま喋る。ああ、やっぱり考えてることなんて分からない表情だ。機嫌の悪そうな顔、変わらない声のトーン。反論めいた事を口にしたくなる、よく分からない視線の先。 「別に、薬が無くても好きになれると思います。」 「あれだけ感じられればな。さっきのは即効性だからすぐ切れた筈だ。・・・本当に身体に変な痛みは出てないのか?」 旦那様もやり過ぎた自覚はあるらしく、さっきも怪我等はしていないかと散々見聞された後だ。本当にただの疲労感の他は何も感じてない僕は、旦那様の視線がやっとこちらを向いた事を確認して、首を横に振った。 それから避妊薬と水を目の前に置かれ、また離れていこうとする旦那様の腕に抱きつきがてら水だけ飲んだ。 生殖行為を好きになるよりもっと楽なのは旦那様のことを好きになる事なのに、これは、そうは云ってはくれないのだろう。 僕はもう、勝手に好きになっているから良いのだけれど。 たまに子供を孕める身体の男が生まれてくる家だったとは云え、そんな珍しい体質は家族にも疎まれた。だから貰ってくれる家をすぐ探されて、旦那様に気に入って貰えるか、適当な名目で顔合わせをした。 お金や世間体の事しか考えていない実の家族よりもまともな目で旦那様は僕を見てくれた。言葉少なでも特別優しい目で見られなくても、この人の方がずっと、僕に誠実であろうとしてくれていると感じた。 本当はもうちょっと貰われるのは遅くなる筈だったし、すぐに子供が欲しい訳じゃないのに引き取ってくれたと云う事はそこに好意があると自惚れてもいいのかも知れない。まぁ憐れみと下心込みと云うか、その辺しか無いのかも知れないけれど。 勢いに任せて抱きついた腕は振り払われたりせず、何も云わずに隣に腰掛けた旦那様に僕はさり気なく抱きついてもみた。わぁ、すべすべだ。これも気持ち良いけど、フサフサな部分にも触れてみたい。行為中には不可抗力で触れた筈だけど、あの時はそれ所じゃなく、全然感触が記憶に無かったから。 でも、主人相手に素面の時に不躾かと今更思いながら、別に僕の行動を何とも思ってなさそうな表情の旦那様に一応お伺いを立ててみた。 「旦那様、正面から抱きついてみても良いですか?」 「それは構わないが、その呼び方はどうにかならないのか。」 「え?ご主人様の方が良いですか?」 「使用人でもそんな呼び方はしないぞ。」 「・・・。通いの皆さんに何て呼ばれていますか?」 「別に使用人と一緒じゃなくて、好きに呼べばいい。」 「・・・・・・・・・。」 僕の周りの大人達は、僕を捧げ物扱いしていたし、愛人ならサインが必要な書類も無いだろうから一応は使用人の枠だと思っていたけど、もしかして違うんだろうか。 机の上に置いたままだった、あとでサインする予定だった契約書を見せてもらい、僕は何度もその文面を読み返した。 「・・・これは婚姻届ですね?」 「使用人と性交する趣味は無いからな。嫌だったら書かなくていい。」 ムスッとした表情のまま、そんなこと云う旦那様の膝に乗り上げ、僕はもう一度抱きついてみた。それから落ちてきた視線に、僕はにっこり笑ってみせた。 「やっぱり旦那様で合ってますね。」 実際の関係性なんてこれからどうにでもなる。僕のことをどう思ってるかは分からないままだけれど、取り敢えず僕に甘い事は判り、大事にしてくれる気はあるらしい旦那様も観念したように、ただ喉を鳴らした。

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