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『沈溺エクスタシー』 第3話

「痛くないですか」 覆い被さってきたセオさんが右頬を枕に押し付けて眉間に皺を寄せる俺にちゅっ、と拙いキスを施した後で頭を撫でながら問う。 痛くはない、吐き気がするとかそういうのもとくにない。ただ、だからと言って腹の中に確かに埋まっている無機質な異物感がない訳じゃない。 心配が滲む問いにこくりと小さく頷いたら隣に片肘をついて横になったセオさんが、改めて顔を覗き込んできた。 「慣れるまで、少しそのまま」 「……ん」 「ちょっと自分で弄ったりしました?……解れるの、早かったから」 「…ッ、んな事しねーです」 「そうですか」 一瞬にして顔が真っ赤になったのがわかった。 くすりと笑うセオさんが何を考えているのかはわからないが、ニュアンスから察するに自分でケツを弄ってるんじゃないか、と思われた事がなんだかひどく恥ずかしい。 首を回して顔を背けようとした瞬間、変に力が入ったらしくて中で例の無機物が微かに動いて、なんか漏れそう、が再発する。 それと同時にほんの微かな小指の爪程の快感のような、むず痒さのような、そんな曖昧なものを生んだ。 「っん、」 「動かない方がいいですよ、中も動いちゃうから」 ケツと顔に熱が集中して、目の前にある端正な顔立ちから顔を背けたいのに、自分の顔も見られたくないのに、少しでも動くと違和感が襲うから動きたくても動けない。 だったら、と左手でセオさんの目元を覆う。 「恥ずかしい?」 「、たり前じゃないすか」 「だったら、僕に背中向けられますか」 「っ、あ、ンン、んっ…」 促される儘、寝返りを試みる。 じわじわと極力中を動かさないように、なんて配慮したところで意識すればする程、力が入る。 その度に中で動くアレが妙な感覚を呼ぶ。寝返り一つにこんなに神経使った事ねえよ。 やっとの思いで寝返りを打ち終わった瞬間に、今までにない排泄感が襲って思わず力んだ。 だが、抜けかかったヘッドに作用して会陰に引っ掛かった球が内側に向かって食い込んでヘッドを再び中へと押し込む。 確かに抜けそうな気がしたのに抜けない。 中までグッと押し返されたら再び排泄感が襲って来るから力んで、するとまた押し戻されて、その繰り返し。 そしてその度に、ぽちゃんと小さな雫が落ちて波紋が広がるみたいな小さな小さな疼きが生まれる。 霧雨の快感、みてえな。 「ッは、あ゙、ンぁ、あッ、ア、抜け、ね、な、っんでっ、ッは」 「抜けないように出来てるんですよ。それで、前立腺を刺激するんです」 「っ、待ッ、抜、ッ…て、まっ、て」 「慣れたらそれだけでイケるようになりますよ」 凄く冷静なセオさんを余所に、ずっと排泄してるようで、してなくて。へんな感覚だけが腹の中で蠢いている。 勝手に背中が丸まって膝が曲がって、嫌でも勝手に腹に力が入る。 手で引き抜こう、そしたらこの違和感から逃げられる。 「押さえてるから。息吐いて、深呼吸して」 「うぁッ、く、──ン、ッう、ンっ…、んっ、……ンぅ、くっ、ン、」 器具を引き抜こうと手を伸ばした俺の意図とは反対に、セオさんが器具を中に押し込んで固定するように押し込み続ける。 わざとだ。俺が抜こうとしたのを見越してわざとやってる。セオさん、こういう時、いつも意地悪だから。 そう確信しながら異物を排除したい一心で力んでみても、微動だにしない。 息をしろ、深呼吸をしろ、確かにそう聞こえた。そうしたい。でも力むのを止められない。 出したい排除したい、漏れそう、排泄したいんだって、ねえ、お願いだってば。 それでも尚、固定され続けて先に限界が来たのは俺の方で、力み続けるのに疲れて恐る恐る力を抜いてみる。 少しだけ異物感が薄れて、肺が空気を取り込んだ。 なのに、器具を押さえるのを止めたセオさんの腕が腹に伸びて力を込めるから。セオさんの方に体ごと手繰り寄せるから。 咄嗟に力んで、ずるん、と一際大きく抜ける感覚の後で、強く押し戻されて、ジンッと響くような快感が広がって思わず声が出る。 「ッア゙、ぁ」 「……、感じた?」 「な゙、ァっ、…な、に、っ、なにこれ、」 「それが前立腺です」 求める問いの答えを聞いてもピンと来なかった。ぜんりつせんってなんすか。でも、聞いた所でわからなそうなんで。改めて聞くのは止めといた。 それより、さっきまでの異物感はほぼ無いに等しい。 遠くまで響くかのように細長い快感の余韻があるだけ。絶頂には程遠いけど、確かな快感が腹の内側から太腿までゆっくりじんわり響く。 背中にセオさんの体温を感じる。存在を感じる。いつもより熱い、でもそれが凄く心地好い。 「ぜんじろーくん」 「な、ンすか」 「……素股、したら怒る?」 「なに、」 それ、と訪ねる前に臀部に押し付けられたソレに目を見開く。 ズボン越しにもわかる、勃起したセオさんの……──。 「太腿に挟むだけだから」 外道の口癖宜しく、先っちょだけだから、みたいな口調の乞いが可笑しい。 ケツに変なもの挿し込まれて、その変なものに快感を与えられた状況下で、人の事を笑える立場じゃないけど。 セオさん、それは可愛すぎる、って。 いいっすよ、と答えたそのすぐ後で、セオさんが切羽詰まったみたいにズボンを脱いだのがわかった。 間髪入れずにローションを太腿に垂らされて、冷たさに身じろぐ。 「ッ、」 「ごめんね」 余裕なさげに申し訳なさそうに囁くのに、太腿の間に差し込まれた手がローションを手際よく塗り広げていく。 太腿で感じた事なんてないのに、肌をセオさんの手が滑る度にゾクゾクして、正直、ヤバい。 「──、太腿、締めてて」 「っあ、ッ、ア、」 指示通り、太腿を締めたらケツの中が蠢いた。 ジンジンとした疼きの中で、瞼の裏が時折白くなる。 「入れますね、ッ」 「あ、ア゙ぁ、」 太腿の間を熱い肉棒が侵入して、カリで会陰に引っ掛かった球を僅かに引っ掛ける。 「ッ、当た、てンァっ、あ、だ、メッ、当たって、る、って、ンは、ッあ」 「わざ、っと」 太腿の間でぬるぬる滑る熱い棒が、気持ちいい。ヤバい。 球を引っ掛けて引っ張られる度に、ヘッドが中で内壁を擦って、内側が、下腹の奥がジンジンする。 「しびれ、っ、ッなか、へん、ッ、」 「っう、んッ…」 どれも、達ける程の快感じゃないのに、興奮が止まらない。 漏れ出る声が止められない。 「ぜんじろ、くッ、勃ッ、てるっ」 「ッえ、ン゙ァ、ダメ待っ、て、ま、ッ…て、」 背後から伸びた手が容赦なく肉棒を掴む。 勃起する感覚はなかった筈なのに、完勃ちの自身の先端から透明な液体が滲んでいた。 「待てない、っ」 「じゃ、イかし、てッ、おれ、もっ」 「ンッ、」 切羽詰まった吐息と返事と共に、根元を扱かれて、太腿を出入りする熱が規則性を持った。 ちゃぷちゃぷと溢れるローションの音がまるで本当に挿入されているかのように錯覚させて、視界が弾ける。 「…あっあぁッ、先、だめ、やッ、めッ、っア、っ」 「好き、でしょ、」 「はッ、あ、ッ、すきっ、ぁ、」 先端を指でばらばらに撫で乱されて手首を掴んでも、動きは止まらない。 下半身、もうぐちゃぐちゃ。 「ゆるんでる、っちゃんと、締めて」 「む、りッ、むっ…、り、」 二の腕で太腿を押さえつけられて、擦られる感触が強くなる。 付け根ぎりぎりをセオさんのが何度も滑って、ヤバい、ヤバ、い。 「ッ、ごめん、」 「ッは──、ッあっ、ア゙ッっ、待って、セオ、さぁァッ、ッ、だ、や、ッ、あ…ぁ、」 突然速度を増した所為で、中が、中で、暴れて、余韻が、疼きが、確かになって。 「ッっ、は、ぁ」 「──ッ、い、あッ、だめ、やばッ、あっ、イ、っく……──、ッッひ、ぃッ、あ゙あ゙っ、」 先に達したセオさんが、根元から先端に掛けて勢い良く扱くのに誘われるが儘に吐精した瞬間、ごりゅっと音と共に激しい快感が濁流の様に押し寄せた。 目の前がチカチカして、吐精の感覚が止まらない。永遠に吐精し続けているような、てっぺんが続くような、その先まで永遠に貫き上げるような。 「っひ、ィ……──、ッく、ア゙あ゙あ゙ぁ──ひ、ッっ、」 ごりゅごりゅと中を引っ掛けながら、ずずずっ、と引き抜かれる最中にも、何度も目の前が明滅する。 射精した後の、いつもはすぐに納まるはずの絶頂が。 終わらない、止まらない。 「──……息、吐いて、」 「っ、ひ、っ、ぃ、──」 「ゆっくり。戻っておいで」 「っ、っ、……ひ、ッ、は、」 「ぜんじろーくん」 「ッは、ぁ、ッ、は、あ……──、は、」 「大丈夫。ゆっくり」 ひっく、ひっく、としゃくりを上げるのを、体ごと全部抱き込んでセオさんが耳元で囁く。 ちゃんと呼吸しようにも、息を吐こうにも、吸ってばかりで止まらなくて苦しいのに、それさえもとてつもなく気持ちよくて、ヤバかった。 漸く何度か息を吸ったら、徐々に霞が晴れるみたいに、本当に少しずつ世界が戻る。 「………、く、るし、かった、」 「うん」 「せ、オさ、」 「んー?」 「、ぎゅう、っして」 「うん」 まだ腹筋がへこへこと収縮を繰り返していて、既に異物を引き抜かれた筈のケツには、まだ感触が残ってるみたいで。 猛烈な倦怠感と眠気と共に、焦燥感みたいな、そんなのを引き連れてきた快感の余韻のせいで、切ない。 「や、ばかった、」 「うん、」 「ねむい、」 「ん」 抱き込む腕に力を込めたセオさんを背中に感じて、安心する。 ねむい、とぼやく俺と同じようにセオさんも眠たそうで。 下半身ぐちょぐちょでちょっと気持ち悪いけど、動くのは億劫で。 目を伏せたら、睡魔が意識掻っ攫って行った。

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