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再会

個室の病室、窓から差し込む夏の鋭い陽で目が眩む。思わず影にした手を退かすと、懐かしい栗色の髪がそこにいた。眠っているだけのように見えるのに、声をかけても目を覚まさない。……もしかしたらもう二度と目を覚まさないかもしれない。撫でると柔らかい毛が指をすり抜ける。 「ハルカ……」 17年待った。俺が生きる理由。俺がここにいる理由。どんな言葉でもいいから声が聞きたい。きっと君は歳をとった自分に気付かないのではないか。警戒されるかもしれないし、嫌われてしまうかもしれない。けれどそれでも…… それから更に1ヶ月後、彼が目を覚まし病院中が歓喜に包まれた。 「タチバナハルカが目を覚ました」 17年待ち望んだ彼の目覚めの報せに心臓がドクンと大きく跳ねる。冷や汗と共に思考が麻痺するのが分かった。同僚に背中を押されナースステーションから病室へ一目散に走った。喉が張り付きそうで息が苦しい。病室へ着くと医師や看護師の人だかり。掻き分けて行くと医師らの背中の隙間から薄く目を開いた彼の姿。会いに行きたい、今すぐ駆け寄って抱きしめたい、気持ちが溢れて止まなかったが、同時に怖くなった。今の自分のことを彼はどう思うだろうか、と。俺は病室の前で立ち尽くすことしか出来なかった――

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