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第3話
「傘がない?」
朝持ってたじゃん、と言って唯も一緒に探してくれたが何回見てもやっぱり俺の傘はなかった。
家族共用の傘だったから俺の傘には小さく『東雲』というネームシールが貼ってある。自分が見落とすはずがない。
「考えたくはないけど、パクられたとか?」
唯は、考えたくはないけど、と前置きをしたわりにはっきりと嫌なパターンを口に出した。
「………お前、昔から思ったことはっきり言うよな。……どうすっかな」
こうしている間にも雨はどんどん強くなっている。
コンビニでビニール傘を買うにしてもたどり着くまでにびしょ濡れになりそうだ。
いっそ職員室で大きなゴミ袋でももらってそれに頭を出す穴を開けてカッパ代わりに、なんて考えが斜め上のほうにいきかけた時「入る?」と唯に言われた。
「…?何が?」
「俺の傘で良ければ入って帰る?そんな大きくないから男ふたりでギリギリだと思うけど」
予想外の言葉に、いいのかと聞くと「ん。寒いから早く帰ろう」と言って唯はすたすたと靴箱を出て傘を広げた。俺も慌てて後について行く。
傘に入れてもらうと確かにギリギリだった。俺の右腕と唯の左腕が当たってしまう。
悪い、と謝ると「別に全然良いけど…腕当たるの気になるならいっそのこと手繋いで密着しとく?」と唯は少し笑って言った。
いや何でだよ、と俺も同じように笑いを浮かべてぶつからないようにほんのすこしだけ距離をとろうとすると唯の表情が変わった。
「隼、本当に濡れるからこっち寄って。ちゃんと傘の中に入って」
笑みが消えて急に真剣な口調でそう言ったかと思うと、肩をぐっと抱き寄せられた。そして俺が濡れない範囲にいることを確かめると、肩から手を離して何故かそのまま手を握られた。
「……え、ちょ、なんだよ、この手」
真剣な口調、抱き寄せられた肩、握られた手、あまりに一気に色々なことをやられて心臓と頭がついていかない。
やっとそんな言葉が出てきた時には冷たかった俺の手は握られてじんわりと温かくなっていた。
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