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プロローグ(1)
◆甘いため息。言えない言葉。◆
金木犀 の香りがひんやりとした夜風に乗って鼻孔に届く。
時刻は深夜0時少し過ぎたところだろうか。
静かな夜の気配と共に鈴虫の綺麗な羽音が何度も意識を飛ばしかける俺の耳に入ってくる。
「……っん、やっ。月夜、俺っ! もうっ!!」
もう限界。
ムリだって言いたいのに言えないのは、俺を責める彼、葉桜 月夜 がいるからだ。
「まだだよ、俺の可愛い亜瑠兎 」
象牙色の額から流れる水のような汗が顎を伝い、むき出しになった肌に当たる。
ギシ、ギシ……。
俺が揺れるたび、ベッドのスプリングが軋んだ音を放つ。
俺の目の前で、蜂蜜色をした絹のような髪が揺れる。
――綺麗だ。
俺は月夜に追い詰められて苦しいのに、蜂蜜色のそれを指先に絡めた。さらりとした柔らかな髪に、思わず口元が緩んでしまう。
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