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第30話(スティーブ)

2時間程、バーに放置されたがナディール議員は約束通り挨拶回りを終えると戻ってきた。 「ティム、部屋でゆっくり飲み直さない?」 ナディール議員は上目遣いで妖艶に微笑む。確かまだ41歳だ。インド系二世で父親も根っからの政治家。 「喜んで」 2人でパーティー会場を出る。 ボディーガードの2人も後に続くがナディール議員が制した。 「貴方達はもう良いわ」 「分かりました。待機しております。何かあればご連絡を」 ボディーガードの2人はスティーブをしっかり睨むと下がっていった。 ナディール議員はスティーブの腕に手を絡めて上機嫌だ。 「ティム、あなたはMCUでは何を?開発部?」 「営業戦略部ですよ」 「まあ、そうなの!MCUにこんなイイ男が居るなんて聞いてなかったわ!ベンジーったら酷いわ」 ベンジーとはMCUテクノロジーのCEOだ。 「平社員にはベンジー社長と会う機会も中々無いんですよ。 それより、さっき人類には《力への意志》が必要と言われていたのはどういう意味ですか?」 「ああ、それね。あなたの言う通りニーチェの引用よ。 人類はこのまま行けば、確実に滅びるわ。 戦争、核兵器、環境破壊、温暖化、パンデミック、、、原因は様々よ。 でも1番は怠惰に今の現状に流される人間達の愚かさが滅びる原因。 生き残る為にはこの厳しい環境に耐えられるように自分をアップグレードしなきゃ。 ニーチェの《力への意志》のように貪欲に力を求めるべきなのよ」 「アップグレード?」 「ええ、そう。テクノロジーを使ってどんな世界にも耐えられる超人にアップグレードするの。MCUの義手も素敵だけど、私の手はもっと素敵よ」 そういうとナディール議員は左手首を見せた。 手を翳すと腕の中に埋め込まれた人工骨格が光り、手首の中に埋め込まれたディスプレイに文字や数字が現れた。 「私の腕には人工骨格とタッチパネルが埋め込まれているし、耳の内耳にはAIを搭載したインバーターインターフェイスを埋め込んでいるの」 「人体改造ですか?」 「人類が生き残る手段は、肉体のアップグレードしかないわ。 あなたにも、いずれ分かる」 「人体改造には興味があります。部屋でじっくり聞かせてくだ、、、さい」 その時、左手の腕時計形の通信機が小さく振動した。 着信の合図だ。 任務中に? ディスプレイに一瞬だけ目を向けると《マイク》とだけ小さく表示されていた。 マイク? 用があれば、スマホへ連絡を入れて来るはずだ。通信機は渡しているけど、今まで1度も鳴らした事が無い。 緊急事態? 「ティム、どうかしたのかしら?」 「いえ、、、大丈夫です」 「部屋はここよ」 ナディール議員はルームキーカードではなく、自分の手首を翳すとドアを開けた。 「インターフェイスが体内に埋め込まれていると何かと便利なのよ。鍵だけじゃなくスマホも持ち歩かなくて済むの。 さ、どうぞ入って」 彼女はスティーブを部屋へ招き入れた。 作戦の本番はここからだ。 だが、集中出来ない。 もし、マイクに何かあったら、、、 冷静を装っているが、心拍数が急上昇したのを感じる。 僕はマイクに何かあったら生きて行けない!

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