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第43話(カイト)
今日はトムに誘われたパーティーの日。
マンハッタンの西端にある「Circle Line(サークルライン)」の大きな看板が目立った船乗場に隣接したプライベート乗船口に着いた。
そして、もう既に帰りたくなっている。
いや、マジで帰ろうかな。
船の乗船口近くには、高級車から続々とタキシードやイブニングドレスを着た紳士淑女が降り立つ。
俺はというと、ラフな格好で良いと言ったトムを信じてジーンズにセーターだ。
完全に場違いだし、あの船に乗る勇気はもう無い。
煌びやかにライトアップされた船。
黒服のセキュリティーや案内人が受付に待ち構えている。
「やっぱり揶揄われてた?」
住む世界が違いすぎる。
俺はあの船には乗れない。
金持ちってこんなガキみたいな悪戯するぐらい暇なの?
今までの言葉は全部嘘?
ノコノコとここまで来た俺がバカな子供なのかな。
ドレスコードなんて聞いてないし。
それに、そもそもフォーマルなスーツやタキシードなんて持ってない。
「君?迷子かな?ここはプライベート乗船口だ」
セキュリティーに声を掛けられた。
「す、すみません。すぐ出て行きます」
情け無くて、何か泣きそう。
「あなたがMr.フジサキ?」
女性の声に振り返る。
長い金髪の美しい女性がいた。シルバーのスパンコールのドレスには深いスリットが入っていて長い足がスラリと伸びる。
「こんばんは。私はコーヴィン社長の秘書のエレナ•ポップスよ。あなたを迎えに来たの」
「え?」
「あなたはこっちよ」
手を引かれて船の右舷側にある入り口へと案内された。
「ちょっと狭いけど、こっちが近道なの」
小さなドアを開けるとバックヤードの無機質な廊下が伸びていた。
「あの、ポップスさん?どこに行くんですか?」
「エレナって呼んで。最上階の社長のプライベートルームよ。入り口から入ったら最上階まで辿り着くのに時間がかかるのよ。色々知り合いにも声を掛けられちゃうし。ごめんなさいね、裏口からで」
「いえ、大丈夫です。でも俺、この船には乗れない。場違いだし、タキシードも持って無い」
「ああ、嘘でしょ。コーヴィン社長、あなたに何も説明して無いのかしら?」
「どういう事ですか?」
「いらっしゃい。すぐに分かるから」
バックヤードのエレベーターで一気に最上階へと向かう。
ドアを開けると、船内の広々とした廊下に出た。
美しい花がいたる所に飾られていて良い香りがする。
突き当たりの1番大きなドアへと案内された。
「どうぞ、入って」
「でも、、、」
「あなたはスペシャルなお客様よ」
恐る恐るドアを開けるとトムではなく白髪の老紳士が待っていた。
え?誰?!
「お待ちしておりました。Mr.フジサキ様。
さあ、早速仕上げましょう」
「仕上げ?」
「ええ、あなたのタキシードの仕上げです」
「エレナ、どういう事?」
「コーヴィン社長があなたにタキシードの贈り物を準備していたの。大体のサイズはあたたの写真から3Dスキャンしていたから、ほぼ出来上がっているの。最後は着てみてから、仕上げるのよ」
「さあさあ、こちらでこれを着て」
渡されたのは、明らかに高級そうな滑らかな生地で作られたタキシードだ。
嘘だろ。こんなサプライズ。信じられない!
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