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深く、だけど確実に_1

「…どうかな?」 映像が終わると田原さんは俺に話しかけた… 場所は、会議室。 俺のプライベートに関わる事だし、と田原さんがわざわざ用意してくれた。 見せてくれた、たった数分程の映像 映像内の音声は嫌でも聞き覚えがあった 「…確かに、この映像の声はあの時と同じお経です」 「…そうか」 「これが、田原さんのパソコンに入ってたってことですよね?」 「そう。それと、これも見てくれるかい?」 そう言って田原さんは俺の目の前のキーボードに手を伸ばした。 先ほどの動画が最小化され、目の前には一つのフォルダが表示される。 「この動画が入っているフォルダがあるんだ、その中にもう一つデータがあってね」 と先ほどの動画の横に1つのメモ帳データがぽつんとあり、田原さんはそれを開いた。 「…数字だけ?なんですかこれ?」 メモ帳の中にはたった数行の数字の組み合わせが記されており、困惑している俺に田原さんは話を続けた 「このまま僕のパソコン使っていいから、これをコピーしてマップで検索してみて」 その言葉でピンときた 「もしかして、座標ですか」 「さすが日下くん、その通りだよ」 これはすごい手掛かりだ、俺は気持ちを落ち着かせ検索エンジンを立ち上げた うろ覚えにどんな場所だったかは覚えているが、無理矢理来させられたせいもあって、詳しく場所なんてわからなかった。 もちろん両親に聞いても教えてなんてくれない。 地図ツールを開きさっきの数字を入力れば、ある場所が画面上に表示された。 薄暗い雑木林に、ポツンと古い小屋がそこにはあった。 「これが…」 あの時ここに俺は無理やり連れだされたのか… 「おそらく、動画の雑木林はこの周辺のどこかだろうね、ここに覚えはあるかい?」 横にいる田原さんが俺に問いかける 「なんとなくですが、場所には見覚えがあります。…確信ではないですが」 動画に映っていた雑木林は、当時座敷牢の窓から微かに見えた景色によく似ていた… もっと詳しく知りたくて、地図ツールの風景写真の機能のボタンを押せば動画の中と似たような風景が出てくる 「周辺は集落みたいですね」 「集落なら動画の音声のお経も、独自の宗教の可能性があるよね…」 「確かに、あの…、もう少し調べてもいいですか?」 「もちろん」 田原さんの承諾をもらい、そのまま位置の確認もしてみた 「この場所、日帰りは厳しいですがそんなに遠くないですね…」 「まさか君、行く気かい?」 田原さんの顔がたちまち険しい顔になる。 「取材で行くつもりはないですよ?」 「そういう問題じゃなくて!あー!十中八九言い出すと思ったけど、それは無謀じゃないかい?」 言い訳するが、論点がずれてたみたいでより一層怒らせてしまった。 「そんなこと言って他に方法があるんですか?」 「君ねぇ…」 それでも俺は負けじと食って掛かった、やっと見つけた手掛かりだ 何が何でも突き止めたい 「ここまで来て、怖じ気つくなんてことはしたくないんです」 「だけど…」 「事件自体は解決済みです。お願いです田原さん、行かせてください」 「そうだけど、少なくともさっき休憩所で取り乱した君をみた僕としては、合意はできないよ」 そういうと田原さんはまっすぐに俺を見据えた 「…、それは」 さすがにそう言われたら俺もそれ以上は何も言えなかった。 しばらく沈黙が続いたあと、田原さんはいつもの優しい口調で切り出した。 「別に仕事として行くのは構わないよ、経費も出そう」 「え?…いいんですか?」 あまりの変わりように驚いた、理由はそのあとの言葉で納得ができた 「でも条件がある。決して一人ではいかないこと」 「ということは…?誰かに事情を説明して同行しなければってことですよね?」 そういうと、さっきまで威厳があった田原さんの顔がみるみる情けなくなる。 「本当はね?日下君の気持ちを尊重して僕がついてきてあげたいんだ」 ーほら、今までの話を聞いている限り むやみやたらに大事なことは他人にペラペラしゃべりたがらない性格でしょ? と申し訳なさそうにしょげて田原さんはこちらを見つめた。 俺はなんだかそんな田原さんを見ておかしくなって笑い出した。 「えっ!やだ、なに!?今度は笑って…」 「…っ、ふは、違いますよ、誰にも知られたくなかったら、そもそも取材に行くとか言いませんよ」 半ば田原さんに頼んだのも賭けみたいなところだった。 「そうなの…?」 「だって、中学生のときの話ですよ?噓じゃないにしても、情報が出てこなかったら俺が頭おかしい奴に見られるから嫌だっただけです」 そういう意味で田原さんにだけ だからといって一人で行くことはできない。 そうなると、田原さんは意外にも俺の事情を説明して同行してもらうことになる。 「もし誰かと一緒に行くなら、僕も他の仕事と並行してって形になるけど何かしらバックアップはするよ」 「そうですか…」 そうなると、柳井、平沢に事情を説明して同行をお願いするしかない。 芳野もいるが、内容が内容だし今回は除外しよう… 柳井は他の作品でアシスタントとして取材になれているが、それは田原さんのアシスタントの時での話。 今回は田原さんと一緒にバックアップに回ってくれたほうがいいかもしれない。 あとは平沢だがあいつと二人だけだと、正直心許ない…。 何せあいつは意図せず問題を起こすやつだ、この間の取材も散々な目にあった。 (どうしようか…) そう考えていたところドアをノックする音が聞こえた。

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