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偽物高校生編 1 一番近く
たったひとつ。
けれどそのたったひとつが貴方との間にたくさんの邪魔を挟んでくるから、イヤでイヤで仕方なかったっけ。
貴方がいる教室はひとつ上の階。だから俺のいる教室の階とを区切る天井が煩わしかった。貴方は入れるけれど、俺はまだ入ってはいけない部室の扉も。貴方と俺の間でやたらと動き回って視界を遮るそれぞれの同級生も。
全部。
ぜーんぶ。
――渡瀬。モップ掛け、お疲れ。
たったひとつ、年が違うだけで、一緒にいられないのが、たまらなくイヤだった。
同級生ならよかったのに。
そう何度も思った。
同級生なら一緒に学校行事できたのに。
同級生なら一緒に帰れたかもしれないのに。
同級生ならもっとお話しできるかもしれないのに。
そう、何度も、何度も。
「んー……」
思ったっけ。
「ミキ?」
今はもうその教室を区切る天井も、部室の扉も、同級生もいない。
「……はい」
「寝ないの?」
「寝ます。エアコン効きすぎかなって」
「んー……」
俺たちの間にはない。
「そう?」
まだ眠そうな先輩が起き上がった俺を引き戻して、自分の懐に仕舞い込む。
「あったけぇ」
そう寝言のように呟いて、素肌をまさぐる。
裸で眠ってしまったもの。寒いんでしょう?
「いーよ、このまま」
まるで触れ合った肌と肌で、俺の思ったことを感じ取ったかのようにポツリと呟いた。大きな手は肩を撫でて、背中をさすってから、その背中をぐいっと自分の近くへ来るように引き寄せる。密着すると先輩の体温に包まれて、見えないはずのその体温に唇でキスしているような、そんな心地がした。
「風邪、ひいちゃう……」
「へーき、いらない」
少し、寝ぼけてる? いらないって、何を?
「ミキがいるから、いい」
ほら、やっぱり少し寝ぼけてる。会話になってるようでなってないような先輩の独り言を聞きながら、その肩に手を置いた。
ね? ちょっと先輩の肩、ひんやりしてる。
首は? ちょっと冷たい。
じゃあ、背中は?
「……ミキ?」
「はい」
「……今、何時?」
「えっと……」
抱き締められてるからスマホじゃなくて、首だけ捻るように振り返って部屋の壁掛け時計を見た。
「五時……です。まだ寝てて平気です。昨日、遅くなっちゃったから」
「あぁ」
昨日、気持ち良くてたまらなかった。ごめんなさい。もう一回欲しいってねだってしまったから。だから、寝るのが遅くなって、まだ少し眠たいでしょう?
「っ、先輩」
俺の素肌で暖をとっていた先輩の掌が、温もりじゃなくて、意図して肌を撫でた。
「ン……先輩」
誘う指先に背中をいたずらにくすぐられて、脇腹を撫でられる。そのまま、脇腹からするりと長い指がお尻の割れ目に……。
「ぁ……ン、まだ寝て」
「んー」
「あっ」
長い指はまだ柔らかさをほんのり残したそこを撫でて。
「昨日、ここ、けっこうしっかり痕付けてたんだな」
「?」
「ここ、今、時間見るのに、見えた。痛くなかった? これ」
あぁ、そこ。首筋のところ? 昨日、俺のイクところを見せてって言って、奥突いてくれた時に、達しそうなタイミングで、そこに激しくキスしてもらったっけ。甘噛みの痕がそこにありますか?
「少し……」
「だよな。これ」
「だから、気持ち良かったです」
貴方になら何をされてもきっと悦んでしまう。
「先輩のものって印が濃くついて、嬉しくて」
本当に大喜びする。
「イっちゃったもの」
貴方のことがとても、とっても大好きなの。人気者で、いつだって誰かが隣にいた貴方を、今、こうして独り占めできるなんて、高校の頃には想像もしなかったけれど。
こんなふうに貴方の肩にキスをして、小さく歯を立てて、ちょっとだけ、一瞬でも、その素肌に歯の痕を残してもいい、なんて、これっぽっちも。
「昨日の、足りなかった?」
「ぁ、いえ。ううん……」
寝ない? ですか?
先輩は俺をもっと引き寄せて、自分の下に組み敷くようにした。
「足りてない、じゃなくて、ぁ」
組み敷いて、心臓が重なるように全身をピッタリとくっつけると、貴方の熱が触れた。ドクドクって脈打ってるのも感じ取れそうなくらい、そこで熱くなって、硬くなって。
ゾクゾク、する。
「あ、ン……いつでも、先輩のこと、欲し、ぃ……の」
昨日、激しくキスしてくれた首筋のところに、今度は優しく唇で触れられて、昨日よりも興奮しちゃう。優しくて甘くて柔らかい口付けは激しさなんてないのに、身体の奥が、潤んで濡れてしまった気がするくらい、感じる。
「あぁ……ン」
何もかも上手な先輩。
いつの間にローションをその指にまとわせたんだろう。貴方しか知らない身体は、昨日の熱を身体の奥に残していて、欲しそうにきゅんきゅんとさせてた。浅いところに指でローションを塗り込んでもらえたら、もう。
「あぁぁっ」
「っ、ミキん中」
「あ、あ、あ」
「あったかくて、最高」
「あぁぁ」
貴方の熱が身体の奥深く、昨日、何度も可愛がってくれた奥までいっぱいに突き刺さって、腰が浮き上がるほど気持ち良かった。
「ミキ」
「あン」
「俺は」
「あぁ、そこ、ダメ、イッちゃう、の」
「足りなかったよ」
「あ、あ、あぁっ……もっと、奥、イクっ」
「ミキと一晩中、こうしてたかった」
「あぁぁぁっ」
言いながら、深く、奥を貫かれた。
深いとこ。
貴方しか触ったことのないところ。この腕の中で、貴方だけに暴かれた身体を開いて、快感に身悶えてる。
高校生の時は想像もしなかった。こんな――。
「ミキ」
こんな貴方の一番近くを自分がこうして独り占めできるなんて。
「先輩、大好き」
「っ」
想像もしてなかった。
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