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#1-1 一目惚れとそれに伴うあらゆる感情

 俺は眉フェチだ。  細かいことを言うと“眉毛”ではなく“”だ。  何でそんな素っ頓狂なことを突然言うかって、それは至極当然な疑問だろう。とにかく、俺という人間を表すために一番重要なことだ。  子供の頃、我が家にはポン太という名前の犬がいた。人懐っこく、いつも元気に駆け回っている幸せを凝縮して犬の形にしたような奴だった。  そしてその潤んだ目の上には、ポンとハンコを押したような眉があって、だからポン太と名付けられた。  ややこしいがこの眉は正確には眉ではなく、毛の生え方による模様みたいなものだ。眉毛はそれはそれとしてしっかりとあるらしいけれど、俺はその辺は分からないから適当に濁しておく。  何にせよポン太のその愛らしい眉は俺の脳裏に強く刻み込まれ、可愛い可愛いと愛でている内に俺はいつの間にか“眉”というパーツそのものにフェティシズムを感じるようになっていった。  初めはポン太のような眉を求めて犬の本やDVDをねだった。両親はそんな俺を見て「この子はワンちゃんが好きなんだね」と笑っていた。  確かに犬は好きだけれど、その頃から理想の眉に対する探究心に取り憑かれていただけだったように思う。  フェティシズムというのは奥が深い。歳を重ねるごとにその対象は犬から人へと変わり、通信簿には「人の目を真っ直ぐと見て話が出来る子」とよく書かれていた。  しかし、俺が見ているのは人の目ではなく眉だ。理想を追い求め、あらゆる人と話をした。会話をしている時に眉の辺りを見つめていても変に思う人はそういない。  そうしている内に誰とでも話が出来るようになり、人として好かれやすい性格になった。  それもこれも、眉フェチのおかげである。

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