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#3-10
――……舌?
はっきりと認識してしまう前に慌てて顔を離す。周は何も気にしていない様子で慌てふためく俺を見ている。
「ちょっ、ちょ、ちょ……ちょっと、周待って」
唇と口内には、まだ余韻が残っていた。
「充分待ったと思うけど」
「違っ……今、舌……」
しどろもどろになりながら、最低限言いたいことが伝わるようになんとか言葉にする
「どうしろとまでは言われなかったから。嫌だった?」
十五年間守り続けてきたファーストキスは想像以上に刺激的なものになった。今までしたことも誰かに聞いたこともない行為の正解なんて分からないけれど、“初めて”はこんなにも体中がムズムズするようなものなのか。
「……嫌、では……ない」
「そう。覚えておくよ」
確かに「キスがしたい」と言ったのは俺だし、周は俺がしたかったことを自分なりに叶えてくれたんだろう。慣れないことに、俺が一人でびっくりしただけだ。
ほんの少しずつ周のことが分かってきたけれど、何を考えているのか分からないときは未だにある。
キス一つとっても、俺の普通が周にとっての普通とは違うことも可能性として考えておくべきかもしれない。
(なんて、そんなわけないよな……)
いくらなんでもこの受け取り方は苦しいと思う。
無理に考える必要はない。単に、お互いがしたいことをした、それでいい。
しかし、納得をしたところで終わったわけではない。やることをやったあとにも、物事には流れというものがある。さて次はどうしたものかと考えていると、周の左手が俺の頬を包んだ。
手のひらから伝わる熱を感じる暇もなく、また唇を塞がれた。さすがに今度はただの軽いキスだったが。
「紅緒は今日のことも思い出す?」
「ん? まあ……絶対に忘れられないとは思う」
この刺激は忘れるほうが難しい。周といれば、ずっとその感覚に浸っていられる。
「そうだといいな。じゃあ、そろそろ帰らないとね。今日はありがとう、楽しかったよ」
外はすっかり暗くなっていた。周に夢中になっていて頭からすっぽ抜けていたけれど、いい加減本当に家族が帰ってくる。
§
あとから余計なことを言われないように、少し縒 れたシーツを直してから帰り支度を整えた周と二人で一階へ降りる。リビングから出てきたポン吉を周が撫でていたとき、外から車のドアが閉まる音がした。
お袋と弟――統司 が帰ってきた。これはまた、周の帰りが遅くなる予感がする。
「周。多分色々言われると思うけど、お袋に何言われても気にしなくていいから……」
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