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フー・ドッグ エピローグ

ホテルのフロントに足を踏み入れれば、何人かの視線が送られてきた。 ハーフアップにした黒い髪とシアーワンピースを靡かせ、金のヒールで人工石の床をコツコツと鳴らす。渡されたクラッチバッグにはもうカードキーが入っていて、エレベーターで客室に向かった。 部屋に入ればスーツを着たスイが待っていて、俺を見れば細波のように瞳をキラキラさせる。 「わあ、キレイだね」 こっちに歩いてきて手を広げたが、 「90分コースでよろしかったですか?」 って腕を組んで冷たく言い放ってやった。 「意地悪しないでよ」 スイは困ったように笑う。俺の二の腕に手をかけて額にキスを落としてきた。離れた唇から溢れた吐息は熱くて、澄ました顔の裏にある情熱が零れ落ちるようだった。 「ずっと会いたかった」 感触を確かめるように抱き締められる。 「どこで何してたんだよ」 「んー、あの2人組がこっちに来てからずっとマークしてて」 「ハア?!知ってたのか?!」 「だから"なるべく家にいて"って言ったでしょ。手遅れだったみたいだけど」 抱擁したまま、スイは額や頬や耳に触れるだけの口付けをしていく。スイはもうその気みたいだけど、こっちは聞きたいことが溢れてくる。 渋るスイを質問攻めにすれば 「あの辺の売春を仕切ってる人に告げ口したら、すぐ動いてくれたよ。でも、あの眼鏡の人強かったんだね。意外」 「レンの様子を見がてらそれらしい格好をして彷徨いてたけど、帰ってくれる気になったみたいで良かった」 「襲われた時騒ぎに紛れてレンを連れいこうとしたんだよ?仕掛けをした車に乗せられた時は血の気が引いたよ。無事で良かったけど」 とか聞けば聞くほどスイの手の上で踊らされてたことがわかった。 でも仕舞いには「ストップ」って人差し指で唇を押され 「もう僕の前で他の人の話をしないで」 ってスイのそれで口を塞がれた。まあいっか。大分気が晴れたし。 そろそろこっちに集中しようかとスイの首に腕を回した。 スイはワンピースのボタンに手を掛け器用に手早くボタンを外していく。 チャイナドレスが露わになれば、スイは上から下まで視線でなぞり 「似合ってるよ」 とにっこり笑う。 それから少し離れたところに俺を立たせてベッドに腰掛け、絵画でも眺めるようにじっくり鑑賞していた。でもそのうちちょっと眉間に皺が出てきて 「・・・ねえ、これ僕以外の人にも見せたの?」 と聞かれた。うんざりして溜息が出た。 「まあな。けどセックスはしてない」 それは胸を張って堂々と言える。キス一つしてない。触られたりとかはあったけど黙っておく。 「・・・浮気だ」 スイは拗ねたように眉を寄せる。今度は呆れて溜息が出た。でも、前みたいにエグいセックスはごめんだ。 俺は歩を進めてスイの目の前に立つ。 やられる前にやれ、だ。 スイの顔を両手で挟み、キスをした。反応をうかがえば、スイはきょとんと俺を見上げている。その隙に肩を押してベッドに倒してやった。 腹の上に跨って、スイのネクタイを解く。 「動くなよ」 スイの腕を上げ、頭の上で手首を合わせて縛ってやった。スイは目をパチパチさせる。 今度はシャツのボタンを外した。スイの胸の突起を指先で柔く押し潰せば「んっ」と小さく声が漏れて、自然と口角が上がるのを感じた。 そういえばスイってどこがイイんだろ。俺が抱かれるばっかだったからな。 首筋や耳から始まり、鎖骨、胸、腹と上から順に手や口でスイの身体を探索する。スイは時々ビクッと震えたり、ふーっと深く息を吐いたりしていた。顎や脇の下に手を潜らせたら「くすぐったい」ってクスクス笑ってたけど。 ベルトに手をかけ外していると 「レン、」 スイが話しかけてきた。 「外して」 もどかしそうに身動ぎする。ズボンにはテントが張っていて、ファスナーを下ろして解放してやる。下着越しに触れば硬ばって熱を持っていた。 「イカせてやるから大人しく寝てろ」 「違う。触りたい。抱きたい」 「ダメだ」 スイのを取り出せば涙を流すように先走りがぷくりと浮き出して、それを舌先で舐めとった。唇を付けずに舌の先だけで亀頭を撫で回す。唾液が口の中に溜まってくるとペニスをゆっくり吸い込むよう迎え入れた。 じゅるじゅるとわざと音を立てて頭を前後させれば、時々スイの腰が浮いた。スイの反応を楽しみながら続けていたら 「あ、あっ・・・レン待って。イきそ・・・」 切羽詰まった声に顔をあげる。悩ましげに眉を寄せるスイには色気が漂っていた。 「イケよ」 「ヤダ。挿れたい」 スイの上にまた乗っかってチャイナドレスの裾を払う。剥き出しになった太腿の内側は汗ばんでいた。膝立ちになって下着を下ろし、薄っすら笑みを浮かべたままスイのペニスを持ち上げる。そのまま孔の中には入れず、臀裂に挟む。タイトなスカート部分を背中側から押さえてゆっくり腰を上下させた。 スイは顔を顰めて奥歯を噛み締めている。いつも俺ばっかり乱されていたから新鮮だ。 だんだん擦れ合う場所はぬめりを帯びてきて、スイの先が襞に引っかかるたび孔が疼く。 でも我慢だ。もっと虐めてやらないと気が済まない。 だけど先に限界が来たのはスイの方だった。 頭の上で括られた手首を前に振り下ろし反動で起き上がる。手首を左右に引っ張ってネクタイを引き伸ばし、隙間から力任せに手を抜き取った。 口を開けて俺の唇に食らいつく。後頭部を押さえつけられ口内では舌が暴れた。キスをする間もスイの手は腕や背中や腰に這う。スリットの中にも忍び込んできて、腿の付け根や臀部の下肉や内腿が揉みしだかれた。 「ああもう・・・どうやって脱がせればいいのコレ」 苛立たしげに、粒状に隆起する乳首に歯が立てられる。詰襟のホックを外して布の合わせ目に合わせて作られたファスナーを下ろせば、肌がはだけたそばから唇が吸い付いてきた。 「優しくしてあげようと思ってたのに」 ってぶつくさ言いながら指が後孔にあてがわれるけど、「あ、硬い」と何回かふにふにと押された。 「セックスしてないっつってんだろ」 「あ、うん。嘘だなんて思ってないよ」 でも安心したって、少し落ち着きを取り戻したみたいだ。 スイは俺を寝かせると、ローションをたっぷり指につけナカを解していく。イイところを掠めると指先を追うように腰が動いてしまう。スイはそれを見逃さず「ここ?」ってしつこく触ってきて、声が出ないよう唇を結んだ。 すっかり蕩かされてしまったその場所に、スイのが当てられる。 「おい、脱ぐから」 上半身ははだけててスカートはめくりあげられているけど、腰のあたりにまだチャイナドレスがまとわりついたままだ。 「そのままでいいよ」 スイは腰を進める。押し広げられ侵入してくる感触に背中がのけぞった。 「皺になるから・・・っ・・・」 「もう僕以外の人には見せないんだからいいでしょ」 いや、二度と着る気はないけど、割と高かったんだぞコレ。でもそんな文句を言う余裕なんてすぐなくなって、ただただ喘ぎ揺さぶられた。 終わった後のチャイナドレスは当然ぐちゃぐちゃのドロドロで、処分しなけりゃいけないような有様だった。 スイは知らん顔して「お風呂入ろっか」ってヘロヘロになった俺の肩を叩く。 「もうちょい後で行く」 「ダメだよ。寝ちゃうでしょ」 「・・・ダルい」 スイが連れて行ってあげようか?って抱き上げようとするものだから、慌てて立ち上がった。そんな小っ恥ずかしい真似できるか。 だけど浴槽でスイの足の間に座って、後ろから抱きしめられているこの状況もどうかと思う。 でも疲れているせいだ。背中を預けられる安心感も、ふわふわした多幸感も、気のせいだということにしておこう。 コイツは嘘吐きだから、心のどっかでそう思っておかないと、もしもの時に立ち直る自信がない。 ・・・いやダメだなコレ。俺もそうとうやられてんじゃねえか。 スイの顔を見上げれば、ドキリとするほど澄んだ目が俺を映す。スイの手が、濡れて張り付いた前髪を俺の額から除き「何?」って甘ったるい響きでたずねてくる。 黙っていたら、もう今日何回目になるかわからないキスをされた。好きだって気持ちが溢れそうになるけど、蓋をするように唇を重ねる。 そしたらのぼせてしまって、結局スイの手を借りることになった。ベッドに入るまでひたすら甘やかされて、不本意ながら俺の方が先に微睡の中に落ちていった。 朝はスマホのアラームで起こされた。 で、また女の格好しろって言われた。メイクをして昨日のシアーワンピースに着替える。 連れてかれたのは小綺麗なマンションで、玄関ホールで待っていると2、3人のやたら顔の整った青年達が現れた。全員スポーツバッグやリュックを持ちそこそこ荷物が多い。 スーツを着たスイはそいつらを部屋に案内する。水回りは共同だけど、個室のついたシェアハウスだ。 不動産の仲介業者に扮したスイが主な説明をして、俺の役割はオーナーのフリをして不動産の所得証明書と身分証明書を提示して、家賃と保証金をいただくことだ。仲介業者にも仲介手数料が入るから、スイはしっかり受け取っていた。 冬の暖房費も備品の修理費もこちら持ちで、家賃と光熱費以外必要ないと甘言で良い気にさせておいてから、水道代、電気代もカードにチャージしておくと言ってその金もぶんどっていた。 そうやって、合わせて半年分の家賃に相当する金を俺たちは手に入れた。 あの青年達は荷解きを始めていたが、ひと月足らずで留学から帰ってきた部屋の持ち主が現れるだろう。さぞかし揉めるだろうが、何も知らないまま日本の風俗店で働かせられるよりはよっぽど良いに違いない。 青年達がベニヒコ達が集めた人材だとスイから聞かされた時は舌を巻いたよ。トラブルと資金不足でしばらく身動きできないだろうな。 スイのヤツ、猟犬どもから全部掻っ攫っていきやがった。 結構見直したけど、アパートに戻った途端、着替える間も無く膝をかせだのハグしたいだのひどい色ボケっぷりでゲンナリした。 でもまあ今回は世話になったから、今日くらいはスイの言う通りにしてやらんこともない。 スイはソファで俺を膝に乗せて座りご満悦だ。こんなかわいげのねえヤツのどこがいいんだか。なのにスイがあんまり幸せそうな顔をするもんだから、思わずふっと笑みがこぼれ落ちた。 end

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