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番外編 氷菓
夕飯を買って帰ればスイがいた。
滅多に使わない台所に立っている。ガスコンロの上にはフライパンが乗せられ、じゅうじゅうと音を立てていた。
「おかえり」
スイは菜箸でフライパンの中身を混ぜながら言った。俺は料理なんてできないけど、スイはこうして気紛れに何か作ることがある。
「何作ってんの」
「トマトと卵の炒めもの。あと油淋鶏」
フライパンの中で揚げ焼きにしているのがまさにそれだった。こんがりと焦げ目のついた鶏肉が2枚並んで、少し多めにひかれた油が爆ぜている。
「もしかして俺の分もある?」
「うん」
「ごめん。買ってきた」
「大丈夫。食べられるよ」
よりによってフランチャイズのフライドチキンなんだけど。スイの分まである。いつ帰ってくるか分からないのに、ついスイの分まで買ってしまう。
そんなわけで、テーブルの上には大皿料理が2つにフライドチキンのセットのボックスが2つとなかなか壮観な眺めになった。
でもまあスイとなら食べ切れるだろ。コイツめちゃくちゃ食うし。
スイが作ったものは普通に美味い。トマトを口にすれば旨味と酸味がじゅわっと広がり、油っこいチキンのいい箸休めになる。
油淋鶏も美味かった。パリパリの皮の食感が心地良くて、甘酢と醤油のタレがよく絡んでいた。
でもやっぱり途中でギブアップだ。
スイは、綺麗な箸使いで鶏肉やトマトを掴み口に運んでいく。いつ噛んだり飲み込んだりしてんだってくらい絶え間なく。
フライドチキンも下品にならない程度にかぶりつくと、溶けるように口の中に消えていく。で、時々指を舐める所作がエロい。
見ていて気持ちいいくらいのハイスピードで、大皿2枚分の惣菜や丸々一つ残っていたボックスの中身は空になった。
スイは
「ごちそうさま」
ってニッコリして、皿や箸を持って立ち上がる。
いったいあの量はどこに消えていったんだ。ペール式のゴミ箱に容器を捨てつつスイを見やる。
洗い物をするスイの身体はまったく変わりない。
さらに今度は「甘いものが食べたい」とかぬかしてやがる。まだ食うか。自分で買ってこい。
冷蔵庫をのぞくスイにそう言って、風呂に入ることにした。
出てきてみれば、スイはポキッと折って食べるアイスを吸いながらスマホをいじってた。折らずに丸ごと1本食ってやがる。
無性に食べたくなって冷凍庫を開けたけど空だった。最後の1本だったらしい。
「お前なあ・・・」
イラッとしながらスイを睨めばニコッと笑顔を返された。
「ごめん。食べたかった?」
「別に。1本丸々食うヤツ初めて見た」
嫌味を混ぜて言ってやれば
「え、そうなの?」
とキョトンとしていた。
「普通割って食うだろそれ」
真ん中で折るジェスチャー付きで説明しても
「ふぅん、そうなんだ」
と本当に今知りましたって顔で目を丸くしている。
「食べてるうちに溶けない?」
「誰かにやるだろ普通」
「あ、そうなんだ。一緒に食べる人いなかったからなあ」
どういう食生活してきたんだコイツ。育ちの良さそうなツラや所作だけどどうにも胡散臭い。
聞いてみても経歴詐称しまくってて当てにならなさそうだ。
食べ終わったスイは、「また買ってきて」と軽々しく言いやがる。
日系のスーパーで買ったんだけどソレ。結構遠いから行きたくない。
でもスイが「今度は一緒に食べようね」ってニコニコするものだから「わかったよ」とつい返事をしてしまったのだった。
end
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