23 / 45

年越し番外編

「どうしたんだよ、ここ」 東京の空港に降り立って、ラブホで一泊してからタクシーでとあるアパートに移動した。 よりによって横浜中華街の目と鼻の先だ。でもスイはここは安全だと言う。 和室で広さは8畳くらい。一応トイレと風呂場が分かれていて、猫の額ほどの台所がある。コンロはガスじゃなくてIHだ。 押し入れなんて久しぶりに見たし、コタツが部屋の中心を陣取っている。いかにも日本式の住まいだ。でも北京のアパートよりずっと過ごしやすい。 スイは、なんとたまに日本に来ていたらしい。隠れ家の一つとか。スイは俺に嘘は言わないけれど、こういう隠し事が多い。 持ってきたスーツケースには俺の服や持ち物か詰まってた。北京のアパートは空になってんだろうな。チャイナジェイドの指輪の箱も入っていて少しホッとした。 荷解きを終わらせれば、スイはこたつの中に足を入れる。 それからコテンとテーブルトップに頭をつけ「あー疲れた・・・」と言ったきり動かない。 寝るな。まだ午前中だぞ。でもラブホで散々ヤッてたからな。 揺り起こすも抱きつかれて一緒に座布団に転がった。一瞬畳の匂いが立ち昇る。こたつから抜け出そうと起き上がれば、スイの腕が身体に巻きつく。 「どこいくの」 スイがギュッと抱きしめてきて、また向かい合って横になる。手がトレーナーの下に潜り込んできた。服を捲り上げ、胸の飾りを啄まれる。吸い上げながら軽く歯で扱かれると背中が反ってしまう。スイは背中を支えるように手を添え愛撫を続けた。 「おい、朝っぱらから」 「ダメ?」 スイは困った様に眉を下げながらもしっかり強請る。この表情は絶対わざとだ。わかってんのに胸の奥がキュッとする。 俺が何も言わないのをいいことに、スイは乳首を口に含んで舌先で転がしている。 「昨日ヤッたばっか・・・っん」 「動いちゃダメ」 腰や腹にも手を滑らせ、下着の中にも入ってくる。尻を撫で回されたかと思いきや、割れ目を伝って指先が孔に触れた。昨日それはもう丁寧に解されスイのを受け止めてきたそこはまだ柔らかかった。指先をすんなり受け入れる。 ここまでくればもう抵抗する気なんてなくなっていた。 スイは寝転んだままスーツケースに手を伸ばしてローションを取り出す。 今度はうつ伏せにされて、その上にスイが乗っかる。野郎2人が重なれば天板がガタガタと浮く。 少し前に出て、その分布団を引っ張ってきた。 「寒くない?」 「ん、平気。あ、ああっ!・・・ぁ」 すぐスイが俺の中に入ってきて、嬌声が飛び出した。座布団を握り込めば、その上からスイが手を重ねてきてギュッと握りしめる。 ゆっくりと抜き差しをしながらスイは俺の頭や頸にキスをする。 「はー・・・気持ちい・・・」 スイがため息を漏らしながら腰を揺らす。艶っぽい声が耳にかかってゾクリとする。 スイをちらりと見やれば澄んだ目は甘く見つめ返してきた。 どちらともなく唇を重ねる。 そのままダラダラとセックスを続けて、昼過ぎにようやく2人してシャワーを浴びに行った。 日本に来てからスイはずっと俺といた。 こんなに長い間スイと一緒にいるのは随分久しぶりだ。好きな時間に起きて、腹が減ったら好きなものを食べて、気が向いたらセックスして。 さすがにそれも1週間近く続けば飽きるし、スイが何を考えてんのかわからなくなってきた。 「あのさ、いつ中国に戻るんだ?」 マグカップでココアを飲んでいたスイがこちらを見て瞬きする。 俺もこたつに入って隣に腰を下ろす。 「日本にいるの、嫌になっちゃった?」 「そういう訳じゃないけど。これからどうすんのかなって」 「僕はこっちにいるのも好きだけどね。治安がいいし、ご飯美味しいし、みんな優しくて親切だし」 スイはニコッと笑うが、その優しさや親切心にガンガンつけ込んで金を毟り取っていくのがコイツだ。というか話をはぐらかしたな? 「こっちでやることでもあんの?」 「今はまだ、のんびりしてていいよ」 スイはマグカップを口に運ぶ。やっぱり肝心なことは話さない。 でも今は、か。ということは来年からか。 今日はもう大晦日だ。 こっちに来たばかりだから大して片付けも掃除もしなくて済んだ。布団も干してもう取り込んである。 「せっかくだから出かける?カウントダウンとか」 「人凄そうだからいいや」 中華街の山下公園や關帝廟、媽祖廟では、毎年カウントダウンのイベントをやっている。 舞踊とか獅子舞とか。0時になる寸前、爆竹を鳴らし、龍舞なんかもやってた気がする。 ガキの頃はよく行っていたな。母親の機嫌がいい時だけだったけど。 そのうちに船の汽笛の音が響き渡った。ここでは歳が明ける瞬間、横浜港の船が一斉に汽笛を鳴らすんだ。 「あけましておめでとう」 スイはニッコリ笑う。 「うん。あけましておめでとう」 「今年もよろしくね」 スイは髪を撫でてくる。それから台所に立って蕎麦をいそいそと出し始めた。暇だったから手伝うことにした。俺も立ち上がる。 「食ったら初詣くらい行くか」 「あれ、行くの?」 「気が変わった」 「そっか。いいよ」 しばらく日本にいることになりそうだし、中国に来たばかりの時は1年近く遊んでたしな。焦ることはないか。 スイがいりゃなんとかなるだろ。 end

ともだちにシェアしよう!