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嘘は門口まで
※文字書きワードパレットのお題を使って書いたお話
お題→ 溜めている、電源コード、泣かせる
ゆっくりしていていい、と言いつつスイは松の内が明けないうちから出かけるようになった。
スイに何か手伝う事はないか聞くけど、それも些細な事ばかりで数時間もしないうちに終わってしまう。だからと言って下手に外をうろついてたら『帝愛妃』に連れ戻されかねない。掃除や筋トレや読書で1日を空費していた。
スイのヤツ、これを見越して横浜に来たんじゃないだろうな。下手するとすぐ俺を囲い込もうとする。
で、あまりにあまった時間で小遣い稼ぎをすることにした。スイに対する細やかな抵抗もあるけど。
ズバリ言えば、エロ動画や写真を投稿サイトにアップして稼ぐ。スカイプで会話も出来るらしいけど素性がバレたらまずいからしていない。顔出しもしてない。際どい下着履いたやつとか、見えるか見えないかっていうポーズのやつとかをあげている。店にいた時やってたことに比べりゃかわいいもんだ。
ノートパソコンに電源コードを繋ぐ。
動画の編集ソフトを立ち上げ、パッと画面に映し出されたのは膝立ちになった下半身だ。ゆったりとした動作でベルトを外していく。焦らした後はジーパンを手早く下ろして下着だけになった。黒のジョックストラップパンツで、紐パンみたいにサポートポーチの面積が狭いタイプのやつ。交差するウエストバンドに指を入れ局部に向かってゆっくりスライドさせる。何度かその動きを繰り返し、そのまま数秒動きを止めて手が画面に伸びてきた。スマホの停止ボタンを押したんだ。ここをカットして、別の動画を繋ぐ。
凝った編集もしてないし直接肌を見せているわけでもないのに、こういう動画の方がよく伸びるのが不思議だ。
時間だけはあるから、こんなのをちょこちょこ撮り溜めている。本当に小遣いくらいしか入ってこないけどな。DMもチェックするけど、明らかにヤリモクのヤツらばっかりだ。
でも、今日通知欄を開いたらほぼなくなっていた。いや、徐々に減ってきてはいたんだよ。煽りや卑猥なコメントも、DMも。
それに比例して閲覧者数も伸びが悪い。けれども実入りは増えていた。ごく数名の人間が、そこそこの金をつっこんでいる訳だ。
これはアレだ。
スイにバレた。
溜息を吐いてサイトのウインドウを閉じる。すぐ動画も写真も削除した。サイトのアカウントはもちろん、ネットのページの閲覧履歴もまるっと消しておいた。これで誤魔化せるなんて思っちゃいないけど、残しておくのも馬鹿馬鹿しい。
その日のうちにスイは帰って来やがった。
俺を見て開口一番
「よくわかったね」
ってニッコリ笑いかけてきた。
だって、このシチュエーションはもの凄く既視感がある。店にいた時、スイが毎回別人に扮して俺に金を落としていった時とよく似ている。
スイにそう言えば「そっかあ」と少し可笑しそうに声を弾ませた。
それからこたつに足を突っ込んで座椅子に腰掛ける俺の隣に座る。俺の顔をちらりと見て、少しずつ表情が沈んでいく。どうしたんだろ、と見ていたら重たげに唇が開かれた。
「レン、もう終わりにしよっか」
頭をぶん殴られたような気がした。
スイは悲しげに眉を下げ澄んだ目を潤ませている。
そうだよな。普通に考えりゃ、恋人が風俗まがいなことして金を稼いでればいい気はしないだろう。それも懲りずに何度も。そりゃ愛想も尽きて当然だ。
けれども、俺は自分勝手にも、それはやめてくれって縋りつくのを懸命に堪えている。
「わかった」
絞り出した言葉はみっともなく震えていた。
いや、ビックリした。気恥ずかしくなるほど好きだって言われてたのにな。こんなに動揺している自分にも、だいぶ驚いている。
虚しさも胸が裂かれるような痛みも振り払う様に立ち上がって、荷物をまとめ始めた。
「え、レン待って。何してるの」
「出てく」
「ダメだよ、危ないから」
「お前とはこれっきりなんだから関係ねえだろうが」
「え、もしかして怒ってる?」
「怒ってない」
「じゃあなんで出てくの」
「・・・なんでって・・・」
スイは俺を背中から抱きしめてきた。小柄で細身の身体はすっぽりスイの身体に包み込まれる。
「お願い、教えて」
いつもみたいに穏やかな声音の中に、少しだけ焦燥が滲んでいた。
「お前が、別れるって言ったんじゃねえか」
安心感に絆されてしまいそうになったけど突っぱねた。
「なんで?そんなこと言ってないよ」
「は?終わりにするっつったのはどこのどいつだよ」
「え?・・・ああ・・・」
スイは1人納得したように呟いて、くすくす笑った。
「それで慌てちゃったんだね。ホントにかわいいね、レンは」
スイは俺を抱きしめながら頬や耳にキスしてくる。
薄々わかって来た。どうやら盛大な勘違いをしていたらしいことを。ヤバい、顔が熱くなってきた。スイの方を振り向けない。
「紛らわしい言い方すんな馬鹿」
とスイに責任をなすりつけてやっても「うん、ごめんね」と素直に受け止めるものだからすっかり毒気を抜かれてしまった。
「レン、自分を切り売りしてお金を稼ぐのは、もうやめよう?」
俺を抱きしめる腕に力が込められる。
「僕は、レンに自分を大切にして欲しいんだよ」
使い古されて擦り切れたような言葉を引っ張り出して来やがった。そんなんじゃ納得できない。
「んなこと言ったって、俺はそうやって稼ぐことしか知らねえし」
「そんなことしなくていいのに」
「年下におんぶに抱っこなのが気に入らねえんだよ、俺は」
気にしなくていいのになあ、なんて言いながら髪に顔を埋めてくる。
だいたい、それは本音じゃないくせに。
「やっぱお前嘘つきだな」
挑発的に笑ってみせた。
スイはそんな答えと表情が返ってくるなんて思ってなかったみたいで、澄んだ目を丸くしていた。
「俺が他の野郎にちょっかいかけてんのが気に入らねえだけだろ」
「わかってやってるの?怒るよ」
「悪かったよ」
スイはまたビックリしたように目を見開いた。スイの方に身体を向けて、キスで追い討ちをかけてやる。
「もうしない」
それだけ言って、何事もなかったかのようにこたつに潜り込みスマホの画面を点ける。
スイはしばらく突っ立っていたけど、溜息を落としながらこたつに入ってきた。スマホを弄る俺の顔を下から覗き込む。
「レンって、悪い子だよね」
ふっと笑みを浮かべるスイに
「お互い様だろ」
と返してやった。
end
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