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比翼連理
引きこもって生活していても、コンビニくらいには時々足を運ぶ。
色鮮やかな包装のチョコレートが目立つようになってきた。そろそろそんな季節か。
かと言って、特に何をするわけでもない。スイは、こういうイベントごとの日は出かけてた気がする。誰と何してんのか考えたくもないけど。
煙草と飲み物を適当に買ってアパートに戻った。郵便受けを確認する。中身は空だった。
まあ、期待していたわけじゃないけどな。
少しだけ気持ちが萎んで溜息が押し出される。
部屋に入り暖房と灯りを点けた。あと換気扇も。ダウンコートも脱がずに、その下で買ったばかりの煙草の包装を破った。
2本目に手をつけた時、玄関の鍵が開く音がした。そわりとしたけど、わざわざ出迎えに行くのも気恥ずかしくなって煙草に火をつける。
スーツ姿のスイが帰ってきた。
ただいま、と俺に声をかけて上着を脱ぐ。
おかえり、と返して煙草をふかしながらスイを目で追う。荷物を置いたらこっちの顔も見ずに風呂場に入っていった。
どうしたんだろ。いつもなら帰ってくるなり俺にまとわりついてハグなりキスなりーーーーいや、期待してるわけじゃないけど。
スイはすぐ出て来て
「調子悪いからもう寝るね。おやすみ」
と寝室に引っ込んでいった。
ふぅん珍しい。そういやスイは風邪ひとつ引いたことがない。3本目を吸おうと思ったけどやめた。
寝室に向かう。
「おい、スイ」
入り口から声を掛ければ、スイは背中を向けたまま「何?」とだけ返ってくる。
「なんかいる?買ってくるけど」
「いらな、・・・やっぱり買ってきて」
「ん、何がいい」
「んー、アイスとか、適当に」
「わかった、ちょっと行ってくる」
さっき行ってきたばかりのコンビニで、アイスだのスポーツドリンクだのレトルトの粥だの買ってきた。
寝室のドアを開ける。
「スイ、買ってきたから」
「・・・ありがと」
「なんか飲む?」
「いい。ほっといて」
スイにそんな物言いをされたことなくて、ちょっとびっくりした。せっかく買ってきてやったのになんだよ。イラッとして、スポーツドリンクを手に取りズカズカ入り込んでスイの首筋に当ててやった。
「うわっ」
と布団の塊が跳ねる。多少溜飲が下がった。
「ダメ。触らないで」
スイに手を払われた。は?今なんつった?この俺に?いや、なんだよ俺にって。どんだけコイツに甘やかされてきたんだよ。
「あっち行ってて」
スイは頭から毛布を被る。ふわっと嗅いだ覚えのある匂いがした。枕元にはティッシュの箱。
ふぅん。独りでするとか珍しい。俺がいるのにな。
「あのさあ、お前早く寝ろよ。熱は」
「だから、触らないでって言ってるでしょ」
額に手を伸ばしたら振り払われた。それも苛ついたように強い口調で。こっちもカチンと来たから言い返す。
「俺に床で寝ろって?もっと場所あけろ」
「ああもう!ほっといてって言ってるのに」
跳ね起きたスイに押し倒された。顔を真っ赤にしてて息も荒い。鍛えてたつもりだったけど、凄い力で掴まれた手首は動かすことが出来なかった。
「どうした?」
こっちは妙に落ち着いていた。スイは今にも泣きそうな情けねえツラしてたから。
スイは黙り込んだから
「お前、俺には嘘ついたこと無いんじゃなかったのか」
と聞けば、うっと声を詰まらせて顔を歪めた。
話を聞けば、要は引っ掛けた相手に変なクスリ盛られたらしい。コトを起こす前になんとか逃げてきたみたいだけど。コイツも失敗することあるんだな、笑える。
だから俺を避けてたんだな。ホテルとか行けばよかったのに。かなりテンパってたんだなって思ったらますます笑えた。
「わかったよ、取り敢えず手ぇ離せ。なんとかするから」
「ダメだよ、今もすっごい我慢してるんだよ」
「うっせえな。普段も気絶するまで突っ込むくせに」
「ちゃんと加減してるよ?」
「嘘つけ」
会話は途切れた。しばらく見つめ合う。
「たまには俺 に頼れ」
スイは目を見開く。そんなにビックリすることか?まだガキのくせに。そんなコイツに頼りっぱなしってのも気に食わない。
「大丈夫だって。前に店で後輩が似たような目に遭ってさ、その時は」
「その時、どうしたの?」
急にスイの目つきが変わった。スーッと温度が引いて、降ってくる眼差しは冷たい。
あ、ヤバい。
口を開こうとしたら唇を塞がれた。舌も言葉も絡めとられる。スイの口ん中に引き摺り込まれて、舌全体で側面や裏側を擦られた。溜まった唾液が変なとこに入って思わず咽せる。
「・・・っのエロガキ!死ぬほど水飲ませて吐かせてシフト代わってやっただけだっての!」
「ふぅん。仲良かったんだね」
表情も口調も静かだったけど、服を脱がせ肌をまさぐる手つきは性急だ。はだけたそばから唇が吸い付いてきて、たまに歯を立てられる。
「良くねえよ、上に勝手にシフト変えられ・・・っ」
下着を降ろされ、孔にスイの剛直を押し付けられた。亀頭から溢れ出す先走りを塗り込めていく。
短く浅い呼吸を繰り返すスイは珍しく余裕がない。
手が空いたからスイの頭を抱き寄せた。スイは頬を擦り寄せながら熱い息を漏らす。
「ごめん、今日はホント無理。我慢できない」
「・・・しょうがねえな。後で責任とれよ」
スイはふっと頬を緩ませ、優しく唇を重ねてきた。俺を抱き込んで腰を進める。よく慣らしもしてないところに突っ込まれて孔もナカも引き攣る。鋭い痛みがピリッと走った後はスムーズに先を飲み込んだ。スイはなるべく浅く抽送を繰り返すけど、すぐ肌がぶつかって破裂音が響くようになった。拓かれていないせいか、いつもよりスイの形が食い込んでくる気がする。
スイも力抜いてって言ってくるけど、激しく揺さぶられて痛みも興奮も快感もないまぜになってる頭じゃ無理な相談だ。
けど必死なのはスイの方で、縋りつくようにずっと俺を抱きしめていた。
「んっ、レン、もっ・・・出る」
コクコクと頷きながら、スイの背中に回した腕に力を入れる。その腕にスイの身体に走る絶頂が伝わってきた。びくりと何度か身体をはねかした後、息を吐くとともに脱力して俺に覆い被さってくる。でもスイのはまだ硬度を失っていない。
スイは俺の顔中にキスしながらゆるゆると腰を動かし始める。
「あー・・・ヤバ、止まんない」
「いいよ別に」
小さく呟いただけだったのに、スイはしっかり拾って俺の名前や好きって言葉を繰り返す。
余裕がなくなって掻き抱くのを見ているのは、こう言ったらアレだけど、愛されているような気がして、満更でもなかった。
いつもは加減しているってのは嘘ではなかったらしい。
次の日は全身が重くて、腰から下を取り替えたいくらいズキズキと痛んだ。スイにマッサージされてようやく起き上がることができたくらいだ。
というかなんでスイは動けるんだ。若さかこの野郎。
「ごめんね、ゆっくりしてていいからね」
朝から何回目だよ、その台詞。ベタベタ纏わりついてきてうっとうしい。けど何も言わずにほっといた。素っ気なくされるよりはマシだから。絶対言わないけどな。
end
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