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第2話

「ごめん。ちょっと、シャワー浴びてきていい?」 「いいから。早くこい」  桐島は少しためらったが、ベッドへ向かった。黒沢が本を読んでいる姿は、いつ見てもいい。いつもはなで上げている前髪が少しだけ乱れ落ち、きれいな指がページをめくる。眼鏡は、視力が良すぎるので疲れるために使っていると、一緒に暮らし始めて、初めて知った。年齢を重ねるたびに、彼は物静かで、さらに知性的になっていく。いつも憧れていた人が、いつも目の前にいるという幸せ……。それを知ってしまってから、桐島は貪欲に求めてしまおうとする自分の心にブレーキをかけてきた。失った時、それでは正気でいられないだろうから。  黒沢は読んでいる本を開いたまま、眼鏡と一緒に、サイドテーブルに置いた。久しぶりに見る黒沢の微笑む顔。桐島は、いつになっても、胸のたかなりを抑えられない。 「なんだかずっとすれ違いだったな」 「……忙しいんでしょう?」 「親父が仕事を押しつけてくる」  黒沢はすこしむっとしたような表情になった。こんなところは変わらない。学生時代と。桐島は、笑った。 「やっと二日、休みが取れた。急になるが、明日、夜、食事に行こう」 「……どうしたの、急に」 「昼間に外に出るのは、嫌なんだろう?」 「それはそうだけど」 「とにかく朝まで突っ走る。……もう、待てない」  桐島は少し、恥ずかしくなった。確かに、自分も待っていたのだから。  荒々しくシャツを脱がされて、激しい口づけを受ける。ベッドに沈まされて、桐島は黒沢の髪に指を差し入れる。そして、いつも考え始めてしまう自分がいる。  自分は、素直に反応しているつもりだった。だが時々、無意識に昔の仕事の名残なのか、媚を売るような仕種をしているような感じがしてしまう。黒沢と暮らし始めて、すぐにそのことで気まずくなった。六年は、長かった。そうしてしまうことを許してほしいと願ったが、黒沢の中ではまだ消化しきれていない部分がある。それ以来、桐島はなんとなく複雑な思いで黒沢に抱かれていたのだった。 「ダメ……だよ……。急には……」 「待てないね」 「……黒沢……」  久しぶりの黒沢の身体は熱かった。なにも考えないでいよう。桐島は、ゆっくりと黒沢の背に腕を回した。

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