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第14話

――赤い糸。 「……これがどうかしたの?」 「おまえ、史上最高に鈍感だろ……」  舌打ちした黒沢は、両手でそれを広げてみせた。輪の形になった。 「……左の薬指にはめてみな」 「……ぴったり!これ、どうしたの?」  がっくりと肩を落として膝に手を置く黒沢に、桐島はたたみかける。 「いつ?これ、俺が知らない時だよね。知らない……え」  桐島は口元に手をあてた。黒沢がまさか、そんなことをするなんて。 「そう、寝ている間に測った。恥ずかしいこと言わせんな!さっきできたばっかりで取りに行ってた。これだけ言えば十分か?」  セレクトショップで席を外した時に取りに行ったのか。赤い糸。それが今の二人を象徴するようで、桐島はうつむいた。 「……赤い糸、なんだ」 「白い糸がなくなってたから、それにした。それがなにか?」  黒沢がのぞきこむと、桐島はうっすらと目元に涙を滲ませていた。慌ててそれを拭うと桐島は顔を上げた。精一杯、今の気持ちを表情にのせてみる。黒沢は、それに応えるように、微笑んで頷いた。 「……これからも、よろしく。黒沢」 「こちらこそ、よろしく」 「それから」 「ん?」 「俺は壊れない。どんなことがあっても決して」 「……そうか」  黒沢は目を伏せて、ほんの少し笑った。  歩を止めないで、よかった。つらくて、苦しくて、息ができないほどになっても。人は結構強いものだ、と桐島は思う。何度でも何度でも立ち上がり、きっとその視線の先には、いつでも黒沢の笑顔と差し出された温かい手がある。大丈夫。もう二度と自分は揺らいだりしない。もっと強くなってみせる。  きっと忘れない。永遠より遠くが見えるような、この鮮やかな季節と、この光景を。  そして隣りにいる黒沢の手に、そっと自分の指を絡めて、桐島は微笑んだ。

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