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第13話
「ほら。顔寄せろ」
「……いやだよ」
「俺の言うことは、何でも聞くんじゃなかったのか」
「それとこれとは別でしょ」
「つべこべ言うな」
「こんな写真、人に見られたら」
「誰に見せるんだよ」
小声で言い合いをしていると、女性が手を振る。
「撮りますよ!笑って!……」
なんとか顔を上げ、唇をかみしめる。息を止めて必死にカメラを見つめていると、黒沢の手に力がこもった。耳元で声がする。
『おまえを殺してでも、俺のものにしてやる』
その瞬間、吹き出してしまう。おかしすぎる。なんで、あんなことを言ってしまったんだろう。これからずっと、黒沢に格好のネタを提供してしまった自分は、本当にバカだと思うと笑えた。
「はい!見てください!」
走り寄ってきた女性が、黒沢にカメラを渡す。黒沢がふと目元を緩ませる。女性と名刺の交換をしている間、もう一人の女性に画面を見せてもらった。
自分で言っておいて、黒沢は吹き出してしまったようだ。額を桐島の髪に押しつけて、めずらしく口を開けて笑っている。その黒沢の肩に頬を寄せて、うれしそうに笑みをこぼしている自分。こんな笑顔を自分ができるなんて。左手の薬指に光るリングがふたつ。桐島はなぜか泣きそうな気持ちになって、口元に手を当てた。
「行くぞ、桐島」
「……うん」
女性たちと別れて、二人は駐車場のあるビルへ向かう。海辺を歩きながら、うつむいている桐島に黒沢はおかしそうに言った。
「とても幸せそうですね、って」
「……うん」
「モデルみたいだって言われた」
「……うん」
「ネットに写真上げようかな?だって。いいよな?」
「……うん」
「どうした?全世界に配信だぞ」
桐島には、どうしてもわからないことがあった。
「ねぇ、黒沢。なんで、俺の指のサイズわかったの?ぴったりなんだけど」
黒沢は大きなため息をつくと、空を仰いだ。
「三年一緒に住んでて、それを聞くか……」
桐島は答えを待った。
「ホントにわからない?」
「わからない」
「そこまで俺に言わせる?」
「……?」
黒沢はスーツの内ポケットからなにかを取り出して、桐島の左手を取り、てのひらに置いた。
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