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第12話

「大丈夫なのか?」 「うん。……気持ちいい」  二人は山下公園を歩いていた。平日だからか、あまり人がいない。 「どうしても、今、おまえと一緒に、ここを歩きたかった」  黒沢は笑った。 「おまえをお持ち帰りした場所だからな」 「……バーカ」  桐島は黒沢の背を強く叩いた。 「なにがなんでも、欲しいって、あの時、思ったんだよな」 「え?」  黒沢が立ち止まって、海を指差した。潮の香りがする。涼やかな風が二人の髪をなびかせた。 「なにを見てるんだろうって思った。……今でもわからない」 「……俺にも、わからない」  なにもわからずに、無我夢中で生き急いでいた、あの時間。こうして六年が経った今、振り返っても、その時間は色褪せずに息づいている。こうしてまた二人でこの場所にいられる奇跡を、桐島は幸せに思った。  黒沢の端整な横顔を見つめながら、なんとなくぼんやりしていると、一人の若い女性が小さな声で桐島に声をかけた。 「あの……写真を撮っていただけませんか?」 「……あ、はい……」  どうしていいかわからず、つい黒沢を見上げようとする前に、彼の手が差し出されて、女性からカメラを受け取っていた。桐島の少し前に身体を乗り出して、困っているのを助けてくれている。桐島は女性から説明を受けている黒沢に、今すぐしがみつきたい気持ちになった。 「じゃ、二人とも、もう少し寄って。……はい、笑って」  まだ二十代前半であろう女性二人は腕を組み合って、弾けるような笑顔を見せた。 「確認してください」 「……はい、ありがとうございます!あの」  カメラを取りに戻ってきた女性は、思い切ったように黒沢に言った。 「お二人の写真、撮らせていただけますか?あの、必ず送りますので!」  黒沢に懇願するような視線を向けると、それに気づいたのか彼が笑う。だが次の言葉に、桐島は絶句した。 「それじゃ、記念に一枚お願いしようかな。きれいに撮ってくださいね。こいつ、結婚することになったんで」 「……く」  振り向きざま、黒沢の目が笑っていた。唇が小さく動いた。 「俺と」  腕を引かれて、海を背に立つ。困ったようにうつむいていると、黒沢の大きな温かな手が、桐島の肩に回ってきた。

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