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第11話
フロントでチェックアウトする時に、たまたま桐島は黒沢の後ろからサインしているシートを見て、びっくりして声が出なかった。あまりの金額の多さに驚いたのだ。
エレベーターに二人になった瞬間、桐島は言った。
「ちょっと、あの金額、どう計算したら、あんなになるんだよ」
「え?」
黒沢は変わった模様のエレベーターの天井を見上げながら、こともなげに言った。
「スイートだったから?それと……ワインかな」
「……ワイン?」
「ああ、ペトリュスの76年だろ?あれが……そうだな、結構するんじゃないかな?」
「ちょっと……」
指輪を合わせたら、いったい、いくらになると思ってるんだ……。確かにそういう世界を今まで知らなかったわけではないが、これから一緒に暮らしていくのだ。そうなると話は別。桐島は先手を打っておこうと思った。
「黒沢。こういうのはもう、ヤメね」
「なんで?」
「こんな浪費癖、困る!」
「ああ、じゃ、気をつけてくれよ」
「は?」
「だから初めから、おまえに金を渡してたんじゃないか」
そういう意味だったのか。桐島は黙り込んだ。やはり、互いに言葉が足りない。これから少しずつ伝えなければ、と思った。
それにしても、と、黒沢はめずらしく感慨深げに言った。
「おまえが、あんなことを言うなんてな」
「……あんなこと?」
『おまえを殺してでも、俺のものにしてやる』
「……もう、やめてよ」
桐島は黒沢に背を向けた。恥ずかしすぎる。
「それを言うなら」
「ん?」
「……気付いてたの?昨日が俺の誕生日だって」
「……えっ?」
黒沢らしい。覚えていなかったのか。そういえば、この三年、互いにそんな話をしたことは数えるほどしかなかった。知っているからと言って、特になにもすることはなかったな、と桐島は笑った。
「まぁ、誕生日とプロポーズが重なったと思って。今回は許せよ」
「……ほんとに悪いなんて思ってないくせに」
「ああ、思ってない」
笑いながら怒った桐島が応戦しようと思った瞬間、エレベーターのドアが開いた。
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