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第4話

 ベッドに上がると、あっという間に上半身を裸にされ、仰向けの状態でシーツの上に縫い付けられてしまった。 「ん……っ」  唇に冬月の唇が触れ、無意識のうちに腕を彼の背中に回していた。下唇を何度か軽く食まれ、薄く唇を開くと、舌を差し入れられる。  久々のキスに最初は緊張してぎこちなかったけれど、すぐに夢中になった。舌を絡め取られ、オレも応えるように軽く吸った。 「ふ……、ぅん……」  キスが気持ちよすぎて、頭がぼうっとしてくる。  けれど、冬月の指先が乳首に触れたとたん、甘い刺激と共に我に返った。  駄目だ。このまま流されてはいけない。今日、この日のためにずっと考えていたことを伝えなければ。 「ま、待った。あの、今日、オレがやりたいんだけどっ」  思い切って言ってみると、冬月は一瞬ぽかんとした顔をしてから、みるみると青ざめていった。 「お前、いつから趣旨替えしたんだ?」 「へ?」  趣旨替え……?  冬月がとんでもない勘違いをしていることに気がつき、慌てた。 「ち、違うよ! そうじゃなくて……!」  上手く説明することができない。基本的に、自分の意志を伝えることは得意ではないので、上手くいかないと諦めてしまう。  つい、いつものように「もういいよ」といじけたようなことを言ってしまった。 「あ、もしかして、するっていうのは、自分で挿入したり、動いたり、フェラしてくれるってこと?」 「自分で、とかは無理だよっ」  そんなこと、オレにはハードルが高すぎる。 「口でしたいって思ったんだ」  それだって充分にハードルが高い。 「でも、冬月が望んでないならいい」 「望んでるに決まっているだろ! でも、今までそんなに積極的だったこと一度もなかったじゃないか」  そうだろうか。一度もないというのはないと思う。まぁ、フェラは一度もしたことがないけれど。 「オレだって冬月にしてあげたいんだ。初めてだから上手くできないかも知れないけど」 「変な誤解をして悪かったよ。フランスでケツを狙われすぎて、過敏になってるんだ」 「え? 大丈夫なの?」  冬月はさらりと言っているけど、それってまずいんじゃないだろうか。 「今のところ死守している。どうも俺はあっちでは可愛い系の部類に入るみたいで、狙われやすいんだよなぁ。俺はバリタチだっての」 「じゃ、じゃあ、逆に抱いて欲しいって迫られたらどうするの?」 「やるわけないだろ。お前がいるのに。もしかして、浮気を疑ってる?」 「そ、そんなことないよ」 「八城はどうなわけ? 誰かに誘われたりしないの?」  それをわざわざオレに聞く意図が分からない。オレが奥手で他人とのコミュニケーションが下手なことをよく知っているくせに。  疑ってくる冬月にヤキモチを焼かせたい気持ちはあるけれど、残念ながらそんなエピソードはない。 「オレは新米だから、仕事が忙しくて遊んでいる時間なんてないよ。時間があるときは夏人と遊ぶけど、篠原とののろけ話ばっかり聞かされてるし」 「あの二人は相変わらずだなぁ。次に帰国したときは連絡いれねぇと」  共通の友人たちの話題になってほんわかしてしまったけれど、今はそういう状況ではないことを思い出した。 「というわけで、オレがするから退いて」 「でもなぁ。俺も八城を気持ちよくしたいんだ。時間がねぇし、いっそのこと、一緒にやるか」 「一緒に?」 「そ」  頷いた冬月が、オレの隣にごろりと仰向けに寝そべった。 「下脱いで、俺の顔を跨ぐようにして、上に乗って」 「なっ。嫌だよ、恥ずかしい!」 「じゃあ、八城が下になる? 俺はどっちでも良いけど、初めてなら上の方がやりやすいと思うぞ」 「そ、そういう問題じゃなくて……っ」 「ほらほら。気持ちよくしてくれるんだろう? 時間がなくなるぞ」 「う……」  オレは渋々ジーンズごと下着を脱いで冬月に跨がった。  完全に冬月に丸見えだ。冬月が何も言わないので余計に気まずい。  恥ずかしさを打ち消すために、冬月のベルトを外して前をくつろげた。  すっかり半勃ちになっている冬月を、下着の中から取り出す。軽く触れると、びくびくっと震えて質量が増した。冬月もずっと我慢していたのだ。  こんな風に間近に見るのは初めてだ。凄く緊張する。  恐る恐る先端に口を付けて、根元を軽く扱いた。 「ん、んぅ……っ」  本当はもっと口の中に入れた方がいいんだろうけど、怖くてなかなか上手くできない。 「ふ……、ひあぁっ」  四苦八苦している間に、後孔にぬるりと生暖かくて柔らかい感触がして、思わず奇妙な悲鳴を上げてしまう。 「八城、もう少し腰を下ろして。届かない」 「あっ、だめ……っ、そんなところ、舐めるなんて……っ」  これまでそんな所を舐められたことがない。ただでさえ、冬月の目の前に晒して恥ずかしいというのに……! 「き、汚いし」 「大丈夫。八城のは綺麗だよ。普段は一人で弄ったりしてるのか?」 「し、してない」 「じゃあ、きちんと解さないと」  いつもみたいに、ローションでいいのに。そう訴えたけれど、却下された。  仕方がないので、冬月に体重をかけないように腰を下ろす。  後孔を何度も舌先で突かれる感触に肌が粟立つ。  ぴちゃぴちゃという卑猥な水音に、耳を塞ぎたくなった。  冬月の大きな手のひらで陰嚢を優しく揉まれて、アナルがひくひくと反応してしまうのが分かる。恥ずかしすぎて、妙なことを口走ってしまいそうだ。 「ほら、口と手が止まってるよ。ちゃんと、咥えて」 「うん……っ、ん……」  オレも負けじと、さっきよりも重量が増している冬月を咥えた。口の中でビクビクと脈打っているのが分かる。  匂いは濃いし、先走りで変な味がするけれど、それは冬月が興奮しているからなのだと思うと気にならないし、オレも興奮してきた。  歯を立てないよう吸い付きながら、唇と舌で扱くように頭を上下に動かした。 「いいぞ。凄いな。初めてとは思えない」  冬月は吐息混じりに呟いた。  流石に、この日のために勉強したとは言えない。  色々と調べたときは出来るかなと不安だったけれど、直接目の前にしたら案外に抵抗感はなかった。冬月のだからだろう。  本当はもっと喉の奥まで咥えたいけど、怖くて出来ない。  なにせ、冬月のペニスは重量感たっぷりな上に、長いのだ。  喉を突いて嘔吐いたときにうっかり歯を立ててしまったら大変だ。もっと気持ちよくしてあげたいのに、自分の技量のなさにもどかしさを感じる。 「ん、ん……っ、う……ん」 「八城、無理はしなくていいからな。よかったら、裏筋も舐めて」 「ん……」  口を離して、リクエスト通りに舌先で裏筋も舐める。血管が浮き出てサイズもマックス状態だ。  オレの愛撫で感じてくれているのだと思うと、より愛おしく感じる。  オレが夢中で舐めているのを邪魔しないようにと手を止めていたらしい冬月が、オレの後孔にゆっくりと指を挿入した。 「ふ……、ぅん……っ」  何とか手や口を止めないように必死だ。 「なぁ、そろそろ挿入れたいんだけど」 「――うん……」  名残惜しい気もしたけれど、身体を起こすと瞬時に身体が反転した。  オレを見下ろす冬月の表情に、思わず嚥下した。獲物を狙う野獣の顔だ。 「ん、んぁ……、んぅ……むぅ……」  最初の甘いキスが嘘のような、荒々しくて深いキス。息をするのがやっとだ。  流石に興奮しすぎたと思ったのか、冬月が苦笑する。 「やばいな。タガが外れそうだ」 「いいよ。オレもそうだから」 「あんまり煽らないでくれ。久々だから、優しくしたいんだよ」  冬月は、いつの間にかベッドボードに用意してあったコンドームを手早く装着する。 「挿入れるぞ」  熱く猛ったものを入り口に宛がい、気遣うようにゆっくりと挿入される。  慣らされたとはいえ、やはり久しぶりなので、痛みこそないが辛い。ローションを足しながら、ゆっくりと抽挿を繰り返す。たまに冬月がぐっと腰を進めると、彼が体内に入り込んでくるのが分かる。それを何度か繰り返し、彼を全て迎え入れることができた頃には、冬月もオレも汗ばんでいた。 「やっぱり久々だときっついなぁ。初めての時みたいだ」  そう言いつつも、どこか嬉しそうなのは、オレが浮気をしていないと身を持って証明したからだろう。  ゆっくりとした抽挿だったのが、だんだんと激しくなってくる。  下腹辺りに強い刺激を感じた。しびれるような強い疼きに、冬月の長いペニスが奥に当たっているのだと分かる。 「や、奥っ、当たって……」 「当ててるんだよ」  にやりと笑った冬月は、執拗に奥を責めてくる。 「だめ、イッちゃうから……っ」 「ああ、イッていいぞ。秋良」 「やっ、ずるい、こんな時に名前……っ」  耳元で名前を呼ばれて、無意識に冬月を締め付けてしまう。 「はは。すごい。ぎゅって締まった。ほら、秋良も呼んで、俺の名前」  突然言われても正直困る。普段は名字で呼び合っているから、なかなか呼びにくい。 「だって……っ、あ、あっ」 「秋良」 「あん……っ、や、やだ、冬月……っ」 「冬月じゃないだろ。恭哉だ」  まるで子供をあやすように、優しく頬を撫でられた。 「……っ、きょう、や……」 「うん」 「恭哉……っ、恭哉……」  一度呼んでしまったら止まらない。バカみたいに何度も冬月の名前を呼ぶ。冬月は嬉しそうに破顔した。  その顔やばい。冬月のこと好きすぎてどうにかなってしまいそう。 「あ、ああっ、あっ、あんっ」  冬月の腰のリズムに合わせて、嬌声が漏れてしまう。 「も、だめ、イクッ」 「いいよ、イって」  オレを扱く冬月の手が早くなる。 「あ、ああっ」  快感が絶頂を迎えたとき、自分の腹に熱い飛沫が飛ぶのを感じた。 「ああ、すごい、濃いな」  感心する声が聞こえたけれど、オレは半分意識が飛んでいた。冬月が何度か抽挿を繰り返してから、ずるり、と去って行くのが分かる。  次の瞬間、再び腹に熱い飛沫を感じた。 「はは、俺のもかなり濃いわ……」  そう呟きが聞こえ、唇に熱い感触を感じたところで、意識が飛んだ。    肩を軽く叩かれて、意識が浮上した。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。 「八城、寝るんなら先に風呂に入った方がいい。ここの風呂凄いぞ。広いし、バブル機能も付いているし」 「うん。でも、もうちょっとだけこうしていたい」  オレは冬月の胸に頭を預けた。怠くて動きたくないというのもあるけれど、もう少しだけこの甘い雰囲気を味わっていたい。  これからあと一年もお預けなのだから。 「あと一年かぁ……」  呟く声が聞こえて顔を上げた。冬月も同じことを考えていたらしい。 「二年も頑張ったんだから、大丈夫だよ」  本当は俺も寂しいけれど、ここで認めてしまったら離れられなくなってしまう。 「それに、帰ってきたら一緒に働くんだし、オレは一年後を楽しみに仕事を頑張れるよ」  オレの精一杯のやせ我慢に、冬月も納得したらしい。 「そうだよなぁ。帰ってきたら八城のまかないを毎日食べれるんだから、あと一年頑張らないとな」  オレのまかない目当てなのかとむくれて見せると、冬月は笑ってオレの額にキスを落とした。 「……あ!」  ふと、重大なことを思い出して、大声を上げてしまった。  冬月がびくりと大きく身体を震わせた。 「ど、どうした?」 「ごめん。冬月に作って貰ったケーキの写真を撮ってなかったことを思いだして」  たしか、白百合の飴は残してあるはず。あれだけは写真に収めないと。  起き上がろうとすると、肩を掴まれた。 「なんで今、思い出すかなぁ」  冬月は苦笑する。 「帰ってきたらいくらでも作ってやるよ。だから、もう少し八城を補充させて」  後ろからぎゅっと抱きしめられる。まるで子供がぬいぐるみを抱っこしているみたいだ。 「あと一年、頑張れるように」 「うん……」  ――あと一年。頑張ろう。  心に決めて、回された腕をぎゅっと握った。

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