1 / 5

第1話

「一昨年の吸血鬼、もっかいやって!」 「は?」 「あの時はまだなんていうか、遠慮してあんまり舐めるように見たりできひんかったから……でもあん時のアヤ、めっちゃカッコよかってんよなあ」  回想にふけり目を細めるリョウに、アヤは呆れた。  リョウが言っているのは一昨年の秋、アヤが吸血鬼のコスプレをした時のこと。アヤの勤めるホテルで毎年盛大なハロウィンパーティーが行われ、従業員も宿泊客もガチの仮装をするのだ。その年アヤがした仮装が吸血鬼というわけ。 「じゃあリョウもやるの? あの情けないワンコの……」 「ワンコちゃう言うてるやろ。狼男やっちゅうねん」  そのパーティーにこっそり内緒で潜入したリョウのコスプレが、狼男。迫力たっぷり、凄みのある狼男になったつもりなのは本人だけ。アヤには可愛いワンコにしか見えなかったようだ。 「ふふ、アヤが見たいっていうなら喜んで」 「気持ち悪いな」  身をくねくねさせてグヘグヘ笑うリョウに一瞥を投げ、アヤは見ていられないというふうに視線を移した。 「こっちになんのメリットもないからやらない」 「それは何かメリットをおねだりしていると?」 「……」 「……じゃ、明日コスプレして写真撮ったら、夜はそのカッコのままで……」 「ほんまこういうメイク似合うよなあ~。薄い顔はメイク映えするわ」 「褒められてる気がしない」 「別に褒めてるつもりもない」  交渉は成立したらしく、翌日は撮影会となった。実はこの申し出は計画的なもので、リョウは自宅からちゃんと狼男のフルセットを持ってきていた。  今はリョウが上機嫌でアヤにメイクを施しているところ。まずは顔全体を真っ白に塗りたくり、その上から目の周りを赤く、その上から黒く、唇には血のような紅。髪はいつものオールバックでOKなので簡単に。わざわざつけ爪まで買ってきた。  アヤが終わると続いてリョウのヘアセットを自分で。自分のはアヤほど力が入っていない。ぱぱっと手早く済ませた。  さあやっとこれで写真を撮ったら終わりだ、アヤが大きく息を吐いた。  ――だがそれは甘かった。

ともだちにシェアしよう!