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第1話 正樹視点
「もうこんなの要らないのに。」
行為後、水を飲んでいるとベットに寝転んだ恋人がポツリとそう呟いた。
『こんなの』と言って恋人の晴人が触っているのは、晴人の首にぐるりと巻かれた首輪だ。首輪には鎖が付いて、ガッチリとベッドの足に括り付けている。
「信頼されてないみたいで嫌だな。」
「…晴人…。ごめん。俺は晴人が凄く大事だから、怖くて…。」
「ははっ怖いって何が?俺が正樹のものだって印はここにあるだろ。」
晴人はにっと笑って起き上がると、自分の首筋を指差した。そこには正樹の名前が彫られている。
「正樹は心配性だな。」
晴人に手招きされて近寄ると、ぎゅっと抱きしめられた。
「首輪あると、動きづらい。行動範囲を制限されるから、自由に正樹に抱きついたり出来ないし、何より二人の間に隔たりを感じる。それが嫌なんだ。」
晴人は拗ねたようにボヤく。
あぁ、可愛い…。側にいると、じんわりと暖かい。
そんな恋人に、正樹は好相を崩す。
晴人の強気な猫目が伏せられて、人より白い肌がほんのり赤い。きっと自分の言っている事が少し恥ずかしいのだろう。
手を伸ばしてその黒髪を耳にかけてやると、ピクリと動いた耳も真っ赤だった。
「可愛い。」
正樹は蕩けるような笑顔で答えて、晴人にキスを落とした。
その声を聞いて顔を上げた晴人はにこっこりと笑い返してくる。
恋人を愛しているから、信じたくなるし試したくなる。
相思相愛。本物のだと証明したくなる。
だから仕方ない。
「…。」
もう晴人のいない、シンと静まり返った部屋。外された首輪。
それを無表情で見つめ、そんな言い訳を考えた。
晴人は、姿を消した。
平たく言うと、逃げた。
結局、愛はなかった。
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