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びっちのはなし

背後からハッハッ、と犬のような呼吸が聞こえる。気持ち悪い。それと共に揺さぶられる俺の体は、全く反応していなかった。 うつ伏せになりながら、手元のゲーム機に集中する。軽快な電子音が流れるそれは、もうすぐステージクリアできそうだった。 「あとちょっと…あっ!」 後ろのおっさんが俺の腰を思い切り引き寄せたせいで、手元が狂ってしまった。マリーオが目の前でマグマに沈んで逝く。 「あぁ〜……もう、おっさん!」 抗議しようとしても、強い力で腰を掴まれて動けない。 俺の声は届いてないようで、ひたすらに腰を打ちつけている。 ズチュズチュと、結合部から漏れる卑猥な音におっさんのボルテージは勝手に上がっていく。ユキ君、と俺の名前を叫びながらより一層激しく腰を打ちつけ始めた。 「…っ、もう、仕方ないなぁ」 さっきのマリーオはセーブする前に死んじゃったから、やり直しだ。もうやる気がない。 「ねぇ、早く終わらせてよ、長いよ」 「ハッ…は、ユキ君、ユキ君…!」 「…聞こえてないじゃん、もう!」 ゲームを枕元に放り投げて、ため息をつきながらおっさんが果てるのを待った。 数分後、ようやく果てたおっさんを体の上から退かしてシャワーを浴びる。 服を着て部屋に戻ると、おっさんはまだベッドにいた。 「今日ここに泊まるの?」 「うん…もしよかったら、ユキ君も」 「泊まるわけないじゃん。それに、いつも中出しはしないでって言ってるよね?シャワーで掻き出すの俺だし大変なんだけど!」 「あ、ごめんね…ユキ君が可愛くて、つい」 「ま、いーけどね。そっちのお金が高くなるだけだし」 おっさんは苦笑いしながらも財布を取りだした。 「はい、これ今日の分」 「ん。ありがと」 サービスとばかりに頭を抱き寄せてキスをする。そのまま耳元に唇を寄せて囁いた。 「また俺を呼んでね…パパ」 「…ユキ君っ!」 こちらに伸ばされた手をひらりと躱し、貰ったお札をバッグに入れる。 「じゃーね」 再び股間が盛り上がって動けないでいるおっさんを後目にホテルを後にした。 「…キ、ユキ」 「ん?あれ…悠じゃん。なんでここにいるの?」 クラシックな音楽が流れる店内。目の前のことに集中していて周りが全く見えていなかった。 当然のように隣に座る悠に聞くと、呆れたような声が返ってきた。 「それはこっちのセリフだろ…なんでバーに来てまでゲームやってんだよ」 「だってこの前おっさんのせいでクリア出来なかったんだもん」 「またヤってる最中にゲームしたのか…相手もよく怒らないな」 「ね、俺も不思議」 俺の飲みかけのカクテルを代わりに飲み干すと、悠はブランデーを二杯注文した。 目の前に置かれたグラスをちびちびと傾ける。 「ん〜おいしい。悠の奢りだと思うと尚更」 「そーかよ」 勝手に奢りにされても怒らない優しいこの男は、悠という。 苗字は知らない。何をしてる人かも、よく分からない。この前俺が大学生って言ったら驚いてたから、多分年上。 この男性専用のバーで知り合って、たまに喋ったり、抱かれたりする関係。 セフレ…とまではいかないけど、そんな感じの関係。 俺はたまにここに来て、話しかけてきた男をパパ活の相手にしている。お金が無い苦学生にとって、パパの存在は偉大だ。セックスの相手までしてるから、もはやただの援交のような気もするけど、パパ活の方が聞こえはいい。 悠がパパ活の相手にならずにセフレのような位置に収まっているのは… 「…なんでだっけ」 「脳内で会話をするな。わかんねえよ」 「いや、悠がパパ活の相手にならなかったのってなんでだっけ、と思って」 「ユキのは援交だろ」 「ヤメテ。パパ活の方が聞こえがいいじゃん」 「やってることは変わんねーくせに」 そう言いながら悠は笑った。 「でもまあ…そろそろ一人に絞ったら?援交の人数」 「だから援交はやめろ」 今俺がパパ活してる人数は全部で四人。お金が無いから始めたけれど、結構な額が貯まってきていた。 「顔だけは良いから周りが寄ってくるかもしれないけど、あんまり多いとトラブルになるぞ」 「…もー、苦虫噛み潰しちゃったじゃん」 「変な使い方だな」 「うるさい」 実は昔、別の三人とパパ活をしていた時がある。三人共かなりの太客で、順調にお金は貯まっていった。しかしある時、その三人がユキをめぐって揉め事を起こした。警察も来るちょっとした騒ぎになってしまったのだ。 「でも卒業するまでは続けたいかなぁ。セックスまで求めてくんのは二人だけだし、全然気持ちよくないけどお金はいっぱいくれるし」 「気持ちよくないのによく我慢するな」 「だからゲームやって紛らせてる。この前もそうだった」 グラスを一気に煽った悠は、耳元で囁いた。 「じゃあこの後…俺に上書きさせて」 一気に甘い空気を纏ったその声に、ぞくりと震えた。 ゲーム画面は、気がついたら暗くなっていた。 「んっ…」 「…っは、ユキ…」 「待っ、ん…っ!」 部屋に入るなり俺をベッドに押し倒した悠は、キスを降らせながら乱雑に服を剥ぎ取っていく。 いつもは優しいはずの男が、今日は何だか荒々しい。理由を聞こうとしても、唇は塞がれたままだった。 ぬるりと入ってきた悠の舌は、口内を激しく蹂躙する。上顎を撫でられて、跳ねるような声しか出せなくなった。 悠の腕を掴んでいた手が力を失う頃、ようやく満足したのか口を離した。糸を引くその唇は、ゴクリと唾を飲み込んでしまうほどに妖艶だった。 「ユキ…勃ってる」 「…!」 おっさん達から何をされても反応しなかったのに、キスをされただけで腰砕けにされてしまう。 真っ赤になった俺を見て満足したのか、さっきの荒々しさは抜け、優しい手つきに戻った。 俺の口の端から漏れた唾液を、舌ですくいあげながら身体中にキスをしていく。 「も、ちょっと休憩…」 「だーめ」 既に息絶えだえなのに、嬉しそうに却下された。鬼め。 ローションを取り出した悠は、俺と悠のソレに絡ませた。 「あ…だめ、それ、」 にやりと笑った悠は、一緒に激しく扱き始めた。 「あっ、あぁ…!ゆ、…っ」 急に襲ってくる快楽の波に耐えきれず、声が漏れてしまう。弱々しい力で悠の手を握ると、何故か激しくなった。 「っ!や、まって、でちゃう…っ!」 「…ん、出しな」 竿を激しく扱かれたと思えば、先端を指の腹で撫でられる。逃げようとする腰をがっちり捕まえられて鈴口に爪を立てられた瞬間、頭が真っ白になる。 「あぁ…っ、…」 甘い嬌声をあげて、白濁を零した。 「…っ、」 少し遅れて悠も俺の腹の上に白濁を吐き出した。 「…ゆぅ、」 少し休憩を取ろうと声をかけたが、笑顔で口を塞がれてしまった。 「…んぅ、…っゆ…う、」 「かわいいな…ユキ」 そう言いながら、悠はナカをほぐすのも早々に、穴に自身をぴたりとつけた。 「…っ!?あ、悠…待って、」 「ごめん、…待てない」 瞬間、グッとナカに悠が侵入ってきた。 「あ、あ、まって、悠…っ」 グッ、グッと肉壁をわけて少しずつ入ってくる悠。圧倒的な質量に、堪らなくてナカを締めつけてしまった。 「…っ、ユキ、もうちょっと緩めて…」 「むり、むり、悠、一旦抜いて…」 悠はローションでぬるついた手で、俺の自身を扱いてきた。 すぐに立ち上がったそこは、既にダラダラと透明な液を零していた。 気持ちよさに目を細めた一瞬、悠は弛緩した俺の身体に自身を一気に埋め込んだ。 「…っ!!!」 「…ふぅ、ユキ…そんな締めんな」 はくはくと必死に呼吸を整える俺を見て、悠は困ったように笑った。 俺の呼吸がだんだん整ってきた時、悠が耳元で囁いた。 「…動くぞ」 「…あっ、や、まって…!あっ、あ、!」 それまでゆっくりと動いていた悠は、いきなりスピードをあげて俺を追い詰めていく。 パンパンと水音が部屋に響き、その音が余計に羞恥心を煽った。 どんどん早くなる律動に、絶頂まで追い上げられる。 「や、いく、いく…っ!」 「…ユキっ」 「っ、…あぁ〜っ!や、あ…っ、ぁ…」 一際大きく突き上げられた瞬間、白濁を吐き出した。 悠も腰を押し付けて、ナカでドプ、と白濁を吐き出したようだった。 何度か腰をグラインドさせ、最後まで出し切った悠は、ズルリと自身を抜いた。 荒い息を整えながら、下から悠を見上げる。 「…俺が悠をパパ活の相手にしなかった理由、思い出した」 「そ?」 「うん…って、え、悠、」 「何?」 悠は使い終わったゴムを結ぶと、新しいゴムを装着していた。 「え、まっ…」 「待たない」 笑顔で言われて、数秒固まる。 慌てて身体を捻って逃げ出そうとしたけど遅かった。 目に映ったのは、恍惚とした表情の悠。 俺の足を悠の肩に掛けさせると、再び大きくグラインドを始めた。耳を犯す卑猥な音と、女みたいな嬌声、揺さぶられる感覚──────── 気がつけば、意識を失っていた。

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