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びっちがヤクザとであうはなし

もうしばらくやんねー。 あの日、そう決意したけど、今日も今日とてバーに来ていた。 「あれ、ユキじゃん」 「うわ…悠」 聞きなれた声。今聞きたくない声でもある。 「ちょっと、隣座らないでよ」 「なんで。俺とお前の仲じゃん」 だからだよ。 心の中でそう悪態をついた。 目の前に差し出されたブランデーに仕方なく口をつける。 鼻から抜ける芳醇な香りに、少し心が落ち着いた。 「で?もう暫く来ないみたいなこと言ってたのに、何で来たの?」 「別にいいだろ。ただ飲みに来ただけだよ」 「えぇ〜?」 「…言っとくけど悠に会うためじゃないから」 じろりと睨みつける。 悠は気にすることなくヘらりと笑った。 「…悠に言われただろ、パパを切った方がいいって」 「あぁ、援交相手な」 「おい」 「ごめんごめん、真面目に聞くよ」 グラスを一気に煽る。 その勢いに任せて口を開いた。 「…思い切って、全員切ったんだ」 「え、全員?」 案の定。信じられないものを見るような目でこちらを凝視する悠。 なんだよ。 「切れって言ったの悠だろ」 「いや…言ったけど。でも、お前大丈夫なの?学費のためにパパ活してるとか言ってただろ」 「うん。だから、探しに来た」 「え?」 「いやだから、新しいパパを探しに来た」 今までの三人は、それぞれの単価が良くなかった。後腐れない奴を優先にしたから仕方がないけれど。 三人とも、惜しみながらも快く別れてくれた。 今度は、狙うは太客一本。一人だとパパに割く時間も少なくて済むし、太客なら単価が高い。 「マグロ一本釣りの気分だ」 「だから、脳内で会話すんな。わかんねえよ」 「そういうことだから」 「どういうことだよ」 「悠が隣に座ってると、みんな俺に近寄れないんだってば」 ちらりと後ろを見ると、こちらに絶えず視線を送る男が二、三人。 「はぁ。わかったよ。じゃあ俺も、今日の相手を見つけてこようかな」 そう言って、悠はフロアの方へ歩いていった。 後ろ姿を見遣りながら、新しいブランデーを煽る。 …三人のおかげで、卒業までの学費は確保することが出来た。 だけど、バイトもしてない俺にとっては奨学金だけじゃ心もとない。やっぱり安定した収入が欲しいから、一人は見つけたい。 暫くカウンターで飲んでいるが、誰も声をかけてける気配はない。いつも一人で飲んでいる時は、必ず誰かしらに声をかけられるのに。後ろを見ると、確かに何人かが俺をそういう目で見ている。 仕方ない。俺が行くか。 そう思ってカウンターから立ち上がろうとした時、隣に誰かが座った。 「こんばんは」 心地よいテノールボイスが鼓膜に響く。 一瞬浮かしかけた腰を再び下ろした。 「…こんばんは」 外面の笑みを浮かべて、男の顔を見上げた。 …これは、中々。 整えられた綺麗な黒髪に、切れ長の目。座っているのに見上げるほど背が高くて、いい香りがした。 スーツも上質な生地だし、時計も中々。しかもなんかいい香りがする。三十代だろうか、若々しさはないけれど、落ち着いた大人の雰囲気がある。 「…お眼鏡には叶ったかな?」 「あ、いや…すみません」 じろじろ見すぎた。思わず赤面する。 「隣、座っても?」 今更ながらに聞かれ、慌てて頷いた。 「しきりに辺りを見回しているから、誰かを待っているかと思ったが…声をかけてよかった」 ああ…成程。誰かと待ち合わせと思われたから誰も声をかけてこなかったのか。周りに候補がいないか目を光らせていたのが災いしてしまった。 「いえ…別に。ただ、誰かが話しかけてくれるのを待ってたんです」 「そう。なら俺はちょうど良かった?」 「ええ…まあ」 「なんだか歯切れが悪くないか?俺じゃ物足りない?」 冗談めかした口調に、苦笑いで返す。 確かに待っていたけど、いきなりこんなのが釣れるとは思ってもいないだろう。タイミングよすぎて逆に怖い。 でも、このチャンスを逃す訳にはいかない。 「いいえ。あなたみたいな人と飲めるなんて、今日は運がいい」 気を取り直して、笑顔で向き直る。 「純粋な褒め言葉として受け取っておくよ。それより…君のことをなんと呼べば?」 「…ユキと」 「俺の事は京と」 「キョウ?」 「本名だよ」 「…へえ、俺も」 その男ーー京は、とても面白い男だった。博識でなんでも知っているくせに、ユーモアにも富んでいる。俺は時間を忘れて京の話にのめり込み、誘われるがままに酒を煽った。 一時間後、俺は完全に酔っ払ってしまった。 なんか、聞かれるがままに今までのパパ活人生全部喋ったし、何なら京にもパパ活の誘いをした気がする。 やばいかな、やばいか。でも楽しい、もっと飲んでいたい。 ぐわんぐわんする頭では、深く考えられない。 「…ユキ?」 「ん〜?へへ」 初対面の人の前でこんなに飲むこと無かったのに、何でだろう。京が楽しい人だからかな、俺も楽しい。 段々視界も声もぼやけてくる。 やばい、落ちる。でも、京なら、大丈夫かな。 きっと置いてくことは、しない。閉店時間になったら起こしてくれるか、帰るまでは側にいてくれるだろう。 心地よい眠気に誘われて、俺は目を閉じた。 「…っ、ぁ…!」 遠くで誰かの声がする。誰だろう。 なにか叫んでいるような、そんな感じ。 「ぁ、ぁ、…っ!」 体がゆさゆさと揺さぶられている。 うっすらと開けたまぶたの先で、俺の足が声と共に揺れているのが見えた。 目の前には大きな身体。ギシギシとベッドが軋む音。 なんか、喉が痛い。この叫び声は、何。 叫んでるのは、俺? その瞬間、意識が浮上した。 「あっ、あっ、…っえ、きょ、う?」 「あー…起きたか、ユキ」 俺を組み敷きながら、今もなお腰を揺らしているのは、意識が無くなる直前まで一緒にいた男、京だった。 何、どういうこと。どういう状況だ、これは。 「まっ、て、あ、や、やぁ…っ!」 そんな心とは裏腹に、口から漏れるのは甘い嬌声ばかり。 知らず知らずのうちに快感を拾っていた身体は、中心から透明な液を零れさせていた。 突然過ぎて頭が追いつかない。なんで、京がここにいるんだ。というかここは何処だ。なんで、なんで。 思わず締め付けると、京が低く唸った。 「…意識が無いユキを好きにするのも悪くねえが…やっぱ意識ある方が締まるな」 「あ、抜いて、ぬいて…っ!」 「あともうちょっと我慢な」 そう言って俺の額に唇を落とすと、急に激しく突き上げ始めた。 「ア、ア、やだ、あぁっ…」 がくがくと身体を激しく揺さぶられる。 京が強く突き上げながら、俺の性器に手を伸ばす。 一緒に激しく扱かれて、チカチカと頭に火花が散った。 「…っイくぞ」 ぶわりと、中に入ってるものが膨らんだ。 激しく腰を打ちつけると、俺の奥に白濁を吐き出した。 「あ、あーっ…!」 その快感に、俺も達する。 じわりと中が温かくなる感覚に、身体が震えた。 びくびくと震える身体を撫でながら、京は何度かぐちゃぐちゃと腰を揺らして最後まで中に吐き出した。 「…ふぅ」 京が腰を引くと、栓が外れて中から大量の白濁が流れ出てきた。その感覚にカッと顔が赤くなる。 これ、絶対一回の量じゃない。こいつ、いつからやってたんだ。 いきなり空っぽになった穴は、隙間を埋めるためか肉壁が収縮を繰り返していた。 「…すげーひくひくしてる」 「…っ見ん、な」 何時間やってたか分からないが、快感を拾いながらのセックスは俺には負担が大きすぎる。いつもの無機質なセックスに慣れていると、こういうのは快感が過ぎる。 「…きょ、う」 肩で呼吸をしながら、恨めしげに男を見上げる。 「そんな顔で睨まれても逆効果だぞ」 にやりと笑った男はベッド脇のテーブルからペットボトルの水を取りだした。 それを目線だけで追う。 正直もう訳が分からないくらいに体が疲れている。指一本動かすのも億劫だ。 それを知ってか知らずか、京は俺の上半身を起こすと、赤ちゃんにするようにペットボトルの口を唇に当ててきた。 それに甘えて、少しずつ流れてくる水をゆっくりと飲み干す。 「ぷは、」 ペットボトルから口を離すと、口の端からつぅ、と水が一筋漏れた。 それを見た京が、なんの躊躇いもなくべろりと口元を舐めてすくった。 ぞわりと甘い感覚が背中を走る。イったばかりの身体には何もかもが快感に思えた。 「こ、の…っ絶倫、くそじじい…!」 息も絶え絶えに精一杯の悪態をつく。 うろ覚えの昨夜の記憶。確か京は三十六だと言っていた。 くそじじいで問題ない。 「へぇ」 スゥ、と目が細められる。 「またベッドに縛りつけられたいか、クソガキ」 「ヒッ」 「…まあいい。やりすぎたしな。俺も悪い。今日はもうシねえから。とりあえずシャワー行くぞ」 ……。俺「も」悪い?そっちが全面的に悪いだろ。なんで俺にも非があるみたいになってんだよ。言ってみればレイプだぞ、こんなの。 「…何だ」 「ナンデモ」 言いたいことは山ほどあるが、まあ、後でもいい。うん。別に怖いからとかそういう訳では無い、うん。 素直に抱き上げられながら、俺を抱える男を見上げる。 昨日よりも乱れた髪の毛に、相も変わらず切れ長の目。触れ合っている肌は筋肉質で、そう言えば腹筋割れてたな、なんて思い出す。 そういえば、昨日の京は紳士的だったのに今はなんかヤクザみたい。キャラ変もいいとこだ。 どっちが本物の京なんだ。前者であって欲しい。 体力が回復したら、根掘り葉掘り聞いてやる。追い詰めて、慰謝料ぶんどってやる。 シャワー室につくと敷かれたマットの上に降ろされた。 もう指一本動かすのも億劫だ。 ザァーと暖かいお湯が上から降ってくる。京の手は乱暴だったけど、ちゃんと洗ってくれた。 暫くして、お湯の効果もあってか足に力が入るようになってきた。それを伝えると、浴槽の縁に体をうつ伏せで載せるように指示された。 「この格好…」 「心配すんな。さすがにもうやんねえよ」 怪しい。すごく怪しいけど、まだ自分で処理できるほど体力は残っていない。 ゆっくりと体を起こして浴槽の縁に体重を預ける。 お尻だけ京に向かって突き出した形に少し羞恥心を覚えるが、これも処理のため。お腹を下しては仕方がない。 「…入れるぞ」 そう言うと、つぷり、と二本同時に指を入れてきた。 「…っ、」 さっきまで京のが入ってたから、すんなりと指は入った。 中で出された白濁を掻き出すように、二本の指がバラバラに動く。 チリ、と僅かに燻る快感を無視して、ぎゅっと目を瞑って耐えた。 あんまり意識するな。すぐ終わる、すぐ終わるから…。 「………………………」 「………………………」 ………長くない?? 「…あの、」 「……………やっぱイイな、」 ボソリと呟かれたその言葉に文字通り戦慄する。 え、何。無理無理無理無理怖い。 二本の指がさっきよりも激しくなっているのは気の所為ではなかったようで。 「あ…、や、やっぱもういい、ありがと、」 危険を察知した俺は、力が入らないながらも浴槽の縁から体を下ろした。 力が入らず床にドシャ、と崩れ落ちる。その拍子に指も穴から抜けた。 そのまま四つん這いで出口へと繋がるドアへ向かう。 あと少し、あと少しーーーーー 「…わり。やっぱ我慢できねぇわ」 「ヒッ、」 必死に逃げる腰を押さえつけられて、そのまま後ろからズプリと串刺しにされた。 一気に奥までぶち抜かれる感覚に、息が出来なくなる。 「〜っ!」 「こら。逃げんな」 優しい口調とは裏腹に、背中まで覆いかぶさってきた京はそのまま俺の腕を京の腕で後ろから拘束した。 やばい、まじで逃げられない。 がっちりホールドされて腕も足も動かせない中で小刻みに腰を揺らしてくる。内部に残った白濁が泡立って、結合部でパチュパチュと卑猥な音を出していた。 「んっ、〜っ!」 必死に快感を外に出そうと身をよじるも、京にホールドされているせいで全く動けない。 せっかく身体を綺麗にしたのに、だらだらと透明な液が足を汚していた。 「きょ、ぅ…も、むり、て、」 「ん…後ちょっとな」 苦しそうな、掠れた声しか出ない。なのに京の声は愉悦が含まれていた。後ろから犯されているせいで表情は見えないけど、だからこそサイコパスみに拍車がかかっている。 「もう、しないっ…て…!」 「…お前の身体が良すぎるのが悪い」 …いやいやいや。横暴にも程がある。 抗議の意味も込めて、目の前にある京の腕に思い切り噛み付いた。 「っ、」 よし、今のうちーーー 怯んでホールドが緩んだ隙に、体の下から抜け出してふたたび出口を目指ーーーそうとして、あえなく引き戻された。 「逃げようとしてんじゃねえよ…なァ、言ったよな…逃げるなって」 「え」 京がホールドを解いたと思ったら、俺の腰をがっしり掴んで激しく律動を始めた。 先程までのゆっくりとしたのとは正反対の、激しい、律動。 「あっ、やっ、ちが、あ、京…!」 「違くねえだろうが…っ!」 後ろから激しく犯されると同時に、京は俺の自身にも手を伸ばした。 「あっ…あーっ、あ、やだ、きょうっ!」 前と後ろ、両方を同時に責められて、すぐに余裕なんてなくなった。頭が、真っ白になる。 「あっ、〜っ!き、きょぅっ…!」 「…しろ…っ!」 空を掻いた手は、後ろから握りこまれた。 過ぎた快感に、意識が遠のいていく。 完全に力が抜けた身体を、京がひっくり返す。 繋がったまま身体を返されて、その衝撃で白濁を零した。 「あれ、今のでイったのか?」 「ぁ……、」 だんだん目の前が暗くなってくる。 悠とセックスしてる時と同じ感覚、多分、もうすぐ寝ちゃう。 なのに、うっすらと繋がる世界の向こうでは、俺の足を抱え直してる京の姿。 ズプ、と再び埋め込まれる感覚に、揺さぶられる両足。 こいつ、まじで……、次目ぇ覚めた時は絶対許さん。 そう思いながら、眠気に抗えずにまぶたを閉じた。

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