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第1話
おれがここに住み始めて多分もう4年くらい
相変わらずだった
おれは相変わらずおもらしする事もあるけど
ここ1年くらいおねしょはしてない、ここはちょっと成長したかも。
あと本当に相変わらずで
相変わらず匡平はおれのことかわいがってくれるし
おれも、相変わらず匡平の事が好きでたまらなかった
おれの大好きな飼い主、
だから毎日すきすき、と一緒にいて
満足してないって言ったら嘘になるけど
満足してるって言ったら嘘になる日常を送っていた
『きょーへい』
「なに、シバ」
『今日はカレー食いたい』
「最近食ってなかったなー食いいくか?」
『ちっがうし。匡平が作ったのを食いたいの。なんでわかんないかな』
「いや、おまえこそわかれよ。今日帰んの何時になると思ってんの?そのあとカレー作ったら食えんの深夜だぞ。なら休憩時間に食いに行った方がいいだろ」
4年間一緒に暮してわかったことがある
おれは匡平はなんでもできると思ってたし
なんでもわかると思ってたし
けど違うところもあるって
例えば
ミント系が苦手でチョコミント食えないとか、
豆乳とか高い豆腐に負けるからやすい豆腐しか食えないとか
たまに天然で察しが悪くて今みたいに、おれは匡平のカレーが食いたかったのに察してくれないとか
おれが匡平の事大好きってこともたぶん、そんなにわかってない
わかんない、好きすぎてよくわかんない
『きょーへいい、』
「いくら駄々こねても作んねえからな、今日は」
『……なんだよ、』
「シバ、それより今日はカレー食って帰って2人で風呂入んねえ?お前の好きなバスボムいれて」
『うん、じゃあ、そうする』
「よし、そうしよ」
と、決めてお互いとりあえず仕事に戻る事にする
仕事はちょっと忙しい
いや、結構忙しくて
最近はあんまり2人揃ってお休みを取れてない
2人でどっかに行きたいけど
次の休みは車検だし
『きょうへええい』
「なに、」
『なぁあ、あのさ、』
「だから、なに?」
『おれ、匡平ってなんでもできると思ってたんだけどなんか違うよな』
「え、なんだよ、突然の悪口」
『別に悪口じゃないけど』
「なに、やっぱりカレーやなの?」
『…まぁ、……それは、そうだけど。我慢する。おれ大人だし』
「そっか、祈織えらい」
と、おれの頭を撫でてくれる
職場なのに、やめろよ
『…なぁ、わざと?』
「なにが?」
『…わざと、おれが我慢できないようにしてんの?名前呼んだり』
「……なに、我慢できなくなった?」
『お前のせいだろ』
「シバ、」
『なに?』
「お前こそ会社で甘ったれた声出すなよ」
と、耳元で言われて恥ずかしくなる
なんだよ、甘ったれた声って
そんな声出してるつもりないのに
はぁあ、と息を吐いて立ち上がり伸びをした
「……シバ、身長伸びたな?」
『そう?』
「うん。健康診断楽しみだなー」
と、話をそらし
おれの頭を撫でて
さっさとオフィスから出ていこうと俺に背中を向けて歩き出す
社長室に戻るのだろうか
んだよ、もう
『きょうへい、』
「どうした、シバ」
『約束だからな。バスボム』
「分かってるって。カレーもな」
と、こちらを振り向かず
手を振って出ていこうとする
相変わらずだった、
おれはちょっと大人になった気もするけど
相変わらず、
おれは匡平に好きって伝えると
匡平はおれにかわいいって返してくれるし
変わったところと言えば
3年くらい前から
おれが飼い主の事を
匡平って呼ぶようになったくらいかな
『きょうへえーい、』
「だからなに。甘ったれた声出すなって。聞かれるぞ、誰かに」
『匡平、』
「何、シバ?」
『匡平、ちょっときて』
と、手招きをして呼ぶと
出ていこうとしてたのにおれのところまで戻ってきてくれる
「なんだよ、」
『おれ、なんでもできるわけじゃなくてなんか違くても匡平の事好きだよ』
と、甘ったれた声にならないように気をつけて
小さな声で伝えると
「シバ、」
『…なに、』
「かわいいことすんな」
と、俺の頭をぐしゃぐしゃ撫でて今度こそ行ってしまった
おれは、別にかわいいことしてるつもりとかないのに
匡平が好きだから伝えてるだけなんだけど、
匡平は、おれのこと、かわいい以外になんとも思わないのかな?
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