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第210話(完)

『なあ、ベッド来たんだけど』 「あぁ、送ったから」 『ソファも来た』 と、不機嫌な声で言う祈織 「だから送ったって」 と、電話越しに答える なんかゲームのハート送ると割とすぐ電話来るんだよなあ? ベッド送ってもソファ送っても電話してこないくせに 「ちゃんとシーツも送ったから敷けよ。また濡れた時困るだろ」 『…うるさ、』 「おねしょしてねえ?大丈夫?」 『…して、ねえもん、』 してんだろうな、 引越し初日におねしょをして 泣きながら電話をしてきて 可哀想でつい行ってしまったが 電話しても来るなと可愛くねえ事を言ったくせに その顔は俺のペットだった頃の顔に戻りつつあった 俺の事好きそうな、 俺に懐いている顔、でもその中にも不安入り交じっているような顔 ただその次の日会社に行く時に会っても むすっとしていてかわいくねえ、気に食わない顔をしていた まぁ、家に行かなくても朝は今のところ一緒に会社に行ってる 明後日は休みで、祈織の車を祈織の家に持って行ってやる約束をしていたから一緒に行くのも明日までだ 今まで24時間一緒だったのに どんどん祈織と一緒にいる時間が減っていって 心配でたまらなかった いや、構いたくて仕方なかった だから、 フローリングにあのペラペラの布団敷いて寝ても体痛くなるだろ、とベッドを買って送って ベッドを汚しても洗濯が楽なように 特注のおねしょシーツも一緒に送った そしてついでにソファも送った ベッド濡らしてもすぐ寝れるように 部屋も殺風景で座るところもねえし 「明日テレビ届くと思うから」 『は?テレビ?』 「Chromecast。せっかく持ってったのに使えねえじゃん、あの部屋」 『…自分で買おうと思ってた』 「じゃあさっさと買えば良かったろ」 『だって、まだ、部屋片付いてないし、』 「あぁ、そうだ。あと今度から田中さんそっちにも行ってもらうようにお願いしといたから」 『田中さん?』 「みなちゃん。家事代行」 『ええ?みなちゃんきてくれんの?』 「あぁ、お願いしといた」 『なんで?』 「お前片付けも料理もできないだろ」 『…やろうと思えばできる』 「なかなかやらねえからなあ」 『…うるさあ』 「詳しい日程とかは後で送るから」 『過保護すぎ』 「じゃあ心配されないようにお前がちゃんと生活しろ」 『…これからするし、』 「これからっていつだよ」 『…もうすぐ、』 「今日の晩飯は?」 『……あ。UberEATSするし』 「そうかよ」 と、こんな祈織の世話をする振りをしているが分かりきっていた 祈織が出ていって駄目になるのはむしろ俺の方で 祈織と関わりたくて物を送る、 祈織の声が聞きたくてよけいに構って過保護になる 『…は?、』 「は?なに?」 『もう、聞いてないなら電話きるけど、』 「悪い、電波途切れたんだって。どうした?」 『…だから、きょうへいはご飯なににすんのって、』 「あー……どうすっかなあ」 決めてなかったな、自分の飯 なんでもいいか、食えれば 祈織と違って俺は身体も弱くないし 適当に済ませてもそんな体調崩すことも無いしな 祈織が出ていってから シーツを毎日は洗わなくなった 自分で洗濯機を回す回数も減った 料理も作らなくなったし 掃除もそんなしない 田中さんが来た時は色々俺がやらないからやって行ってくれるが そもそもそんな散らからないし 洗い物も出ない 料理も1人分、自分の分だけ作ってもなんもうまくねえ。 祈織とよく食ってた冷凍うどんも 2人で食べた時は普通に食ってたのに 今更1人では食い飽きていて食う気にもならない 『…きょうへい、おれの事は心配しなくていい。おれはもう出ていったし』 「そんなん無理だろ。大体捨てないでって言ったのお前だろ」 『それは…この前はちょっと動揺してたから。おれのことより自分のご飯考えればいいのに』 「…適当に済ませるよ」 『…きょうへいは料理出来るんだから作ったらいいじゃん、』 「…出来るってほど上手くねえよ」 『作ってくれてたじゃん、おれには』 「簡単なやつだろ」 『簡単なのでもおいしかったし。作ってたべればいいじゃん。おれだってきょうへいがちゃんと食べてないと心配するんだよ』 「…わかったよ、ちゃんと食うから」 『なんかやる気な』 そりゃそうだろ、もう今日はお前と会えないんだ やる気も何も無くなる 『きょうへいも、寂しいの?』 「あぁ、」 『……慣れるまで、だよ、そんなん』 「…慣れるもんか?お前は、俺がいないのに」 『…おれは……おれじゃなくて、きょうへいはすぐなれるよ』 「そんなことねえよ」 『あるよ、きょうへいは、たかがペットが出ていっただけだもん』 「たかがペットじゃねえ、」 お前が、 祈織が、ペットの訳ねえだろ、 なんでそんな自分を卑下する言い方をするのか いや、最初にそう言って、 祈織を シバを飼い始めたのは俺か だから仕方ない事なのかもしれない 「シバは、……大事な、ペットだったんだよ、たかがじゃねえ」 『…うん、大事にしてくれてたの知ってる』 「…なぁ、祈織、」 戻ってこい 何度目かの言葉を口にしようとしたが 『なぁきょうへい、』 と、祈織が先に口を開く 「…なんだ?」 『お前のかわいいペット、今1人で頑張って生きてんだけど…それでもきょうへいは、』 「…なんだよ、」 なんだよ、かわいいペットって 自分で自分の事ペットって言うな かわいいに関しては否定しねえけど 『戻ってこいって言うの?』 「……それは、」 もちろん、また一緒に暮らしたい ただ祈織はその生活に限界を感じて出ていったのだ また祈織に辛い思いをさせるかもしれない 今度こそ辛い思いはさせない 大事にする、 色々な感情が入り交じり言葉に詰まる そんな俺に 電話越しに祈織のため息、?深呼吸? 深く、息を吸う音が聞こえた そして、 『もどって、何すればいいの?お手でもしてやろうか?』 「俺はそんな事…望んでねえよ」 『じゃあ、やっぱりもう戻らない』 「…お前、俺のこと嫌いになったの?」 『ちがう、嫌いになれたら出ていかなくてよかったのに』 なんだよそれ、 嫌いになったから出ていくんだろ? 「じゃあなんで、俺はずっと言ってんだろ、お前のこと、必要だし。お前だって寂しいだろ?俺も寂しい」 『だから、きょうへいは大丈夫だって。すぐ慣れるよ』 「…なんだよ、なんで俺は大丈夫なんだよ」 『おれのこと手元に置いておきたいだけだからだよ』 「手元に置いておくとかじゃねえだろ。お前とただ一緒にいたくて、一緒に居れないのは寂しいっていってんだよ。わかんねえ?」 『寂しいとか……大体、おれのこと最初に要らなくなったのは匡平だろ』 「そんな事ない。俺にはお前が必要だ」 『ペットをつなぎ止めておくだけの言葉になんて、騙されない。匡平はおれのこと、もう要らなくなってるんだよ』 その言葉で理解した 今は何を言っても無駄だと 祈織だって、そんなこと自分で言いたくないんだろ 声を聞けばわかる 隠しているつもりかもしれないが 声が震えている はぁ、と軽くため息を吐いた 長期戦だな、これは 『…きょ、』 「祈織」 『なに、』 「明日テレビ台買いに行こ。送んの忘れた」 『…なんだよ、いきなり。いらないし』 「今何言っても無駄だろ、俺の事信じられないだろうし」 『…そんなこと、ない、』 「だからお前が分かるまで俺はお前にちょっかい出し続けることにするよ」 『もう、俺と話すの飽きちゃったの?』 「お前人の話聞いてたか?」 なんだよその言い方 俺の言うことなんも聞かないくせに 話すの飽きられんのは嫌なのか? わがままなやつ 『聞いてたよ、』 「もう、今はなんも言わないって。わかるまでゆっくり伝えるから」 『…なんだよそれ、ずる』 また次顔を合わせた時は不機嫌な顔をするんだろう、 でも、また何か困ったら 俺の元に帰ってくる 今はそれでいい。

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