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第209話

『んん、かたいてぇ、っ、』 肩が痛くて目が覚めた 寝れるかなって思ってたけど 引越しの疲れもあったから いつの間にか寝てしまっていたらしい きょうへいの家と違って ふかふかのマットレスもない 安物のシングルの敷布団は朝まで熟睡はさせてくれなかった きょうへいの家で寝た時は下にラグ敷いてたからこんな硬くなかったのに、 肩痛い、今何時と起き上がって 時計を確認しようとしたが、 びちゃ、と手の下で何かが音を立てて 一気に嫌な感じが広がる 『え?』 うそだろ、 まさか、そんなはずない だって、治ったんだ もう、治ったから出てきたんだ、 でも、どう考えても おしりの下に広がる不快感は嘘じゃなくて 混乱して少しだけ視界が歪む 『…っ、』 どうしよう、 おそるおそる掛け布団を捲ると やっぱり布団の中はびしょ濡れで おねしょシーツを敷いていないから 掛け布団も、敷布団もぐしょぐしょになっていて おしっこの嫌なにおいがした どうしよう、おねしょした、 スウェットの上から股間を握ると ぐしゅっと嫌な音がして 冷たくなった布が肌に張り付く 『っ、きょぅへ、』 どうしよう、こんなの、どうやって片付ければいいんだよ、 いつもおねしょしたらどうしてたっけ、と思い出そうとするが いつもきょうへいがキレイにしてくれてた事しか頭に浮かばなくて 悲しくなって涙がこぼれた、 なんで今更おねしょなんか、 もう治ったのに きょうへい、 きょうへいの声が聞きたい、 そう思ったら我慢できなくなって 携帯を手に取った でも、きょうへいの家を出てきたのに おねしょしてきょうへいに会いたくなったなんて言えない、 どうしよう、とそのまま固まっていると きょうへいから2件メッセージが何か来ていた事に気付いて きょうへいのトークルームを開く しかし、そこには言葉じゃなくて ハートが送られてきていただけだった 後はおやすみのスタンプ なんだよ、おれもうこのゲーム飽きたのに きょうへいに教えなきゃ、 声だけ、聞いたらすぐ電話切ろう と、自分に言い訳をして 電話をかけてしまった 出なかったらすぐ切ろう、 まだ朝早いから、寝てるかもしれないし 3回コールなったら切ろう、 しかし、 「…はい、」 『…、きょ、』 案外すぐに出たきょうへいに 声が震えそうになって 1度息を止めてからゆっくり息を吐いた 「もしもし、祈織?どうした?」 『きょうへい、』 「あぁ、なに?どうかした?」 『あ、あのさ、』 「寂しくなっちゃった?」 『ち、っげえし、』 ハート、もう送らなくていいって、 「祈織?どうした?泣いてた?」 『…泣いて、ねえ、し、』 なんだよ、声震えてないのに、何で気付くんだよ 「寂しいの?」 『ちっ、がう、けど……、』 「違うけど?つか早起きだな、今日引越しの片付けで休みにしてんだからゆっくり寝ればいいのに」 『……それは、……おねしょ、』 恥ずかしいけど言ってしまった、 声を聞くだけのつもりだったのに、 でも、しょうがないじゃん だって、どうやって片付ければいいかわからないし 「あー、おねしょしちゃったか、」 『…うん、ふとん、濡れた』 「あれは?おねしょマット荷物に入れてやったろ」 『…使ってない、』 「そっか、とりあえずシャワー浴びな。びしょ濡れだろ?あとバケツあるの分かるよな?」 『…うん、』 「濡れた服はとりあえずそこ入れときな。まずはシャワー、冷えてるとお前すぐ風邪ひくからゆっくり温まりな」 『…っ、うん、』 と、きょうへいに言われて のそのそと起きあがる 起き上がった拍子に我慢していた涙がボロボロこぼれて あんまり濡れてなかったスウェットの上半身にも涙の水跡をボタボタつけるから 情けなくて腕で涙を拭った 『きょうへい、』 「冷えるからさっさとシャワー行けよ」 『…わかってるけど、』 電話、切りたくない、 そんなおれの気もしらず 「うん、じゃあゆっくり温まれよ」 と、きょうへいは電話を切ってしまった なんだよ、もっときょうへいの声聞きたかったのに 仕方なくそのままシャワーに向かって きょうへいに言われた通り 脱衣場に置かれていたバケツに汚してしまったものを入れる これ、なんか水につけたりするんだっけ? いつもきょうへいがやってくれてるからそれもよく分からなくて 後でまたきょうへいに聞こうと すぐにシャワーを浴びることにした まずは、きょうへいに言われた通り 温まらなきゃいけない おしっこベタベタして気持ち悪い、 シャワーでおしっこついている所から流して ボディーソープを手に取って また汚してしまった所を洗うと おねしょして気持ち悪かったのがようやくすこしマシになった 泡も流して キレイになったけど、 汚してしまった布団も見たくなくて バケツに入れたままの服も見たくなくて お風呂から出るのが嫌になった しゃがみこんでそのままただただ身体中にお湯を浴びる きょうへいが、温まれって、言ったから、 『…もう、やだ、』 お風呂から出たら片付けなきゃいけない、 どうやったらいいかわからないから調べなきゃいけない、 もうやだ、出たくない ただただシャワーを身体にかけていたけど そのまま結構長い時間経って いつまでもこうしているわけにはいかないから 仕方なくシャワーを止めた 温まりすぎたかも、 フラフラする、水飲みたい でも、水飲んだらおもらしするかもしれない 1人なのに、おもらしもしたらどうしよう 不安になりながら しょうがなくお風呂からでて タオルで適当に拭いて 着替えを置いていない事に気付いて そのままタオルを巻いてリビングに向かった しかし 何かバサバサ音がして びっくりしてリビングの前で止まる どうしよう、なんの音、 なんか、ダンボールとか崩れた? どうしよう、と タオルしか巻いていない裸だから余計心許なくて きゅ、とちんぽのさきっぽを握りながらゆっくりとリビングのドアに手をかけ そっと中を覗く 『…え、』 「おお、温まったか?」 『…きょうへい、なんでいるの、』 「だってお前泣いてたろ。片付け方もわかんねえんだろうなって。なんでちんちん握ってんだよ」 なんでもない、とすぐに手を離して 『いつきたの?』 「たった今だよ。まだきたばっかりだからなんも片付いてねえ」 『それは…カギは、』 「お前がずっと机の上に放置してたから合鍵作っといた」 『…なんで、そんな、勝手に、』 「お前は俺のだからだよ」 『おれは、出てきたのに、』 捨てたくせに。もう要らないのになんでそんな事言うんだよ、 おれが電話したくらいで来なくていいのに、 「…戻ってこい、祈織」 うん、 戻る、と 頷きたかった けど、 『いやだ、おれは、ちゃんと1人で生きるんだ、』 「…そんなん、」 『無理だって、きょうへい思ってんじゃん。だからおれが電話したらすぐに来たじゃん』 「お前だってどうしようもなかったから俺に電話したんだろ」 『ち、がう、』 「何が違うんだよ」 『片付けに来て欲しかったわけじゃねえし』 「だったらなんで電話したんだよ」 『…それは、』 声が聞きたかっただけなんだ、 「…はぁ、とりあえず片付けるぞ。やり方教えるからちゃんと覚えろよ」 『……うん、』 「とりあえず服着な。せっかく温まったのに冷えるだろ」 『着替え、…えっと、』 どこやったっけ、パンツとか と、ダンボールを探すけど 「ほら、こっちに入れたろ。横に書いてる」 と、先にきょうへいが見つけて出してくれて 「…おむつ、持ってきたけど。パンツでいいか?」 『…うん、』 「あとお水飲んどきな。買ってきたから」 と、パンツを履かせてくれて ペットボトルの水もくれた ちゃんと冷えてないやつ、 スウェットも着て水を飲んでいると いつの間にかシーツが剥がされて布団の上にタオルが置いてあることに気付く 『布団、』 「びしょ濡れになっちゃったからとりあえず吸水してあとでランドリー連れてってやるから、」 『…うん、』 いまは、自分の車が無いからしょうがないんだ、 しょうがないからきょうへいにお願いするんだ、 『これ、洗ってくる、』 と、きょうへいが剥がしておいてくれたシーツと掛け布団カバーを持って 洗濯機のとこに向かう 早く洗おう、と洗濯機に突っ込もうとしたが、 「濡れたシーツと服は予洗してから洗濯機な。シミになるから」 と、着いてきていたきょうへいがいうから手を止める 『予洗、』 「量が多くて大変だと思うから軽く濯いだらバケツにまとめて適当に水とこれ入れて1時間くらい付けとけばいいから」 と脱衣場にある、さっきおれが脱いだ汚した服とシーツをまとめてジャバジャバ洗って バケツにお湯を入れてその中に洗剤みたいな粉を入れる 『洗剤?あれじゃん、うちの会社のやつ』 「うん、漂白剤。おしっこのシミよく取れる成分になってるから」 商品部の方はおれあんまりらないんだよなあ、 一般介護用品向けのものとかの商品だったはず、あの洗剤 ここ置いておくな、と洗面台の棚の下に入れたきょうへい 『洋服、白くなる?』 「あぁ漂白?ならないやつだから」 『…そっか、』 「あと1時間くらい置いたら洗濯機に入れて回そうな」 『…うん、』 洗濯機に突っ込むだけじゃダメなんだ、 『もう…教えてもらったから、次からできるから』 「そうかよ、」 『だから、電話してもこないで』 「あぁ、次から来ねえよ」 と、きょうへいは言ったけど きっと嘘だと思った 『きょうへい、』 「…なんだよ、」 『やっぱり、来て。おれのこと捨てないで』 「捨てるわけないだろ」 うそつき、捨てたくせに きょうへい、好き、と背中に抱きついた

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