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第208話

何言ってんだよ、俺 謝らねえと、 まだ間に合うかもしれない そんな事を考えているうちに何日も過ぎてしまっていた いや、もう拒絶され続ける事に 柄にもなく心が折れた あの後祈織とは ちょこちょこ会話もするがそこまで雑談はしなくなっていて 『荷物纏まった』 「そうか、そう言えばちゃんと駐車場も契約したよな?」 『駐車場?』 と、初めて自分で家を借りるらしい祈織は 色々抜けていて 俺に言われてようやく取り掛かることもある 『ちょっと電話して確認する、』 本当に多少の着替えと枕だけしか持っていかないようで 引越し業者の手配もしていなければ 水道ガス電気もようやく一昨日して予定していた引越し日には間に合わず 引越しの日を2日遅らせる事になった ほら、やっぱり俺がいないとまだダメだろ、 今なら間に合うから引越しなんてやめろ と、何回言おうとしたか しかし、そんな事言ったら またペット扱いと怒らせてしまう 拒否されると目に見えていて言えないでいた そんなんただの言い訳に過ぎないだろ どうでもいいんだよ 例え祈織が1人で完璧に引越しの手続きを終えたとしても 俺は祈織が出ていくのを反対したい ずっと一緒にいたい、 俺は祈織が好きだ 祈織が俺に対する依存より 俺が祈織に対する執着の方がきっと強い 『駐車場、今月は残り2週間空きないから来月からならいいって』 「……引越し、2週間ずらすか?」 『さすがにそれは…今日引っ越すって決めたし…業者の人今日来るから』 「でも車もってかなきゃ仕事どうすんだよ、お前電車乗れねえだろ」 『…た、タクシー』 「一人暮らし始めんのに無駄遣いする気か?経費でさすがに落とせねえよ」 『だ、だって、』 「…わかったよ、出社時間同じ日は俺が迎えに行くから」 『ええ、それは、違うじゃん』 『ちゃんと契約しなかったお前が悪い』 『…ごめん、』 「…べつに、近いし。お前の家」 『…そろそろ、行くから』 と、着替えと枕と布団を持った祈織 以前祈織が買ってきたシングルの布団。1度しか使わなかったがまさかこんなところで役に立つとは思わなかった 引っ越すにしては少なすぎるように感じる荷物 「…布団、下まで運ぶの手伝う」 『ありがとう、』 と、自分の車で引っ越すことにしていた為 下の駐車場のトランクまで荷物を運ぶのを手伝おうとしたが 「…お前駐車場のないのに車乗ってってどうすんの?」 『あ』 「………送る」 『…ごめん、』 と、下を向いて気まずそうにする 車の鍵や携帯と財布を持ち俺も家を出る準備をする 「忘れもんねえ?」 『うん、』 「本当に持ってかなくていいのか?色々」 『うん…いらない、』 と、俺の顔を見ないまま言う祈織 いらない、 その言葉は祈織に残されたこの家にある物達に向けられた言葉だということはわかっていた なのに、俺が言われたように感じて 深く突き刺さり痛みを覚える 俺がプレゼントした物は勝手に祈織の荷物に詰めて 祈織も勝手に詰められた事に気付いていたが、さすがに捨てるのは悪いと思ったのか持っていくようだが 炊飯器や電気ケトル、 この家で2人で使っていたもの 後は祈織がこの家にきてから買ったもの、 気に入って着ていた洋服も、 2人でよく映画館ごっこと言って使っていたプロジェクター 祈織が用意してくれたコーヒーセットは全部置いてかれた 「洋服は?最近買ったやつもあるだろ。この前、映画館行った時に着てたやつとか。新しかったろ」 『うん、置いていく』 「なんで、俺着れねえぞ」 『知ってるよそんなん』 「いらねえの?」 『うん』 「私服ほとんど置いてってんじゃねえか?」 『…だって、その服たちは、』 「なに?」 『………仕事以外の日出かけねえから私服とかいらねえし』 「休みの日何着てるつもりなんだよ」 『スウェットあるからいい』 「ええ、あ、そう言えば食器持ってねえだろ。箸と茶碗」 『………持ってかない、』 いらないのか、 俺がプレゼントした物は置いてかれても困るから祈織の荷物の所にまとめて置いておいたら持って行くことにしたようだったが 最初はスーツも持っていかないんじゃないかと心配していたかさすがにスーツは持っていくらしい プレゼントじゃなくて、ただ買い与えただけの箸と茶碗はいらないらしい 祈織がここにきて 初めて一緒に買い物に行った時に買ったものだ 箸と茶碗と抱き枕、 枕はまぁないと寝れないから持っていくようだが 箸と茶碗は気に入って使っていた様子も無いしな… 『持ってかない……けど、』 「けど?」 『それは、捨てちゃやだ、』 「…捨てねえよ、」 捨てられるわけねえだろ、 箸も茶碗も… ずっと使っていたマグカップも、 コタツも ゲームも お前がもう着ないって言った服も 俺はなんのキャラかイマイチわかんねえけど祈織が集めていたチョコのお菓子に入っていた小さいフィギュアも 車に乗り込むと 祈織はいつも通り助手席に座ったが ぼーっと窓の外を眺めていた 「なぁ、やっぱり引越し辞めれば?」 『…今更、やめないよ』 「…悪かった。戻ってこいよ」 『…戻らないよ、』 「なんでだよ、」 『きょうへいじゃなくて、おれの問題だから』 「…どうすりゃいいんだよ、そんなん」 『…おれだって……わかんねえよ。でも、もう出ていくんだ、』 「…そうかよ、」 『うん、』 「……諦めねえよ、俺は」 『………なんでそういうこというの、』 「祈織と一緒にいたい、祈織と一緒に暮らしたいから」 『おれのこと…要らないって、言ったじゃん、』 「…それは…お前が俺の事要らないっていうから」 要らないわけねえだろ 『やだ、まだ戻らない』 「…そうかよ、」 『おれが、きょうへいの必要になれたら、また考えて』 「…何言ってんだよ、俺にはお前が必要だって言ってんだろ」 『…必要じゃない、今は』 「必要だって」 『ちがう、本当の意味で必要とされたい』 こんなに俺は祈織を手放したくないのに 何故祈織はわかってくれないんだ、 全てを拒絶して 全てから耳を塞いでいるように見えた でも、祈織をそういう風にさせてしまったのは 紛れもなく俺だった だったら、 分かるまで根気強く伝えていくしかないのかもしれない 例え何年かかろうとも 「祈織、いつか戻ってこいよ、俺の所に」 『…もう、おれはペットにはならないよ』

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