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第207話
おれはもうきょうへいのペットでいられない
はっきりときょうへいの口からそう聞いて
決心した
あれから、あのおむつでおしっこさせてもらったあともおねしょもおもらしもやっぱり出来なかったから
『話があるんだけど』
「なんだ?改まって」
『これ、見て』
と、紙をきょうへいに渡すと
きょうへいはペラペラとそれを見て
「…間取り図?何?」
と、不思議そうな顔をする
もうわかりきっていた
きょうへいはもうおれのことなんていらなくなってるんだ
もう ペットとして見れないって。
でも一度拾ったから捨てられなくて困っていたんだ
だから、最後くらいおれから言葉にした方がきょうへいも楽なはずだった
『きょうへい、おれもう出てくことにした。ここ』
「は?なんでだよ。急に何言ってんだ?」
『いや、だって、おれもう自分の収入で部屋も借りられるし…ここにいる意味ないじゃん』
「いや、お前それだけが理由でここにいた訳じゃないだろ?」
『…おれ、自分でうまく家事もできないし…金もなかったからここにいたけど、もう貯金もあるし……それに、おねしょも、おもらしももうしなくなったから』
だからもうきょうへいがかわいがってくれたおれのままではいつまでもいられないんだ
上手にペットをできなくなったから
きっとこの先どんどんおれの事がじゃまになる
「お前もう俺の事必要なくなったから出てくのかよ」
きょうへいに出てけって
もうお前いらないって言葉にされたら耐えられないだろう
だから、その前に自分から出ていくことにしただけの話だった
それに、きっときょうへいもそんなの言葉にしにくいだろうし、
『ちがうよ、きょうへいが、おれの事いらなくなってるんじゃん、』
「は?何言ってんだ?そんなわけねえだろ」
『きょうへいが必要だったのは、金もなくて、おもらしもおねしょもする世話が必要なおれだけど…もう、おれはきょうへいの世話は必要なくなった、』
「…だから、…出てくのか?」
『…うん、そうだよ、』
きょうへいに捨てられる前に
自分から出て行くのだ
きょうへいを困らす前に自分から
もう、きょうへいはおれの事いらなくなってるんだ
だから、もうペットとしての好きもくれなくなる
そんなん、もう出ていくしかないじゃん
出ていって、ちゃんと
ヤナギさんみたいに仕事もできるようになったら、
もう世話が必要なおれじゃないってわかったら
ペットじゃなくて、きょうへいもちゃんとおれのこと
ひとりの人間として見てくれるかもしれない
ちゃんと大人になったら
ペットとしての好きじゃなくて
立派な大人になったら
今度はちゃんと人間として好きって言ってくれるかもしれない、
「いや、むりだろ……だってお前、家事だって…まともに出来ねえし…金は多少は増えたかもしれねえけど1人でまだ暮らせねえって、」
『…おれだって大人だ、それぐらいどうにかする』
「何言ってんだ、お前には俺が必要だろ?俺にだって…!」
『きょうへいが必要なのは……ペットのおれだ』
「いや、ちがっ、」
『違くない、きょうへいといるにはいつまでもペットでいるしかないんだよ。ペットで、お前の飼い犬で』
「そんなわけねえだろ、お前はペットなんかじゃねえよ。俺はお前を大事に思ってるし、」
きょうへいは、おれが欲しい言葉をたくさんくれる
でもその言葉たちも今はペットが逃げないようにする首輪にしか思えなくて、
本当に欲しい言葉は1度も言ってくれない
『もう一度、言うけど……おれにはもうきょうへいの世話は必要ない』
だから、それを証明したいんだ
ずっと目を逸らしてたけど
顔を上げてきょうへいの目を見ると
ゆらっと少しだけ揺らいだ気がした
「…勝手にしろ。お前が俺の事もう要らねえって言うなら勝手にどこにでも行け」
『ちが、そんな事言ってねえじゃん』
「言ってんだろ!もう俺の事要らねえって言ってんのはお前だろ。1人で稼げるようになったから俺は必要なくなった、ペットなんて辞めてえって」
『そんな……ペットのおれがいいならわざとおもらしして、迷惑かけて、そんでこのまま、ずっとなんもできないペットとして飼われつづければきょうへいは満足かよ!』
「誰もそんなこと言ってねえだろ!…わかった、もう出ていけ。お前がおれのこと要らねえならもう俺もお前の事要らねえ」
と、その言葉にぐさり、と深く突き刺さるような痛みが走って
でも、きょうへいに泣き顔を見せたくないから
目を逸らして我慢した、
1番言われたくないことを言われてしまった
いや、言わせてしまった
おれなんかいらないって
『…わかった、 できるだけ早く引越すから』
「………必要な物は持ってけよ。お前の物残ってても使えねえし」
『いらない、全部捨てて』
おれと一緒に、全部捨てればいい
そう自分で言ったのに
涙が溢れてすぐにきょうへいに背中を向けた
いやだ、出て行きたくない
捨てないで
でも、今更そんな事言えるはずなんてなくて
『枕だけ…持っていってもいい、?』
と、精一杯の言葉を口にした
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