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第9話
ナオは言われるまま、ベッドの上に起き上がって衣服を脱ぎ始めた。
(抱き合う、か)
婚姻相手が決まり、結婚という現実が近づいてきたのは確かだが、抱き合う、と言われるとなんだかまだ現実味がない。佐野との邂逅ではとてもドキドキしたし、オメガとして体も反応しているのかもしれないが、ナオの心はいまだ青葉に向いている。
もちろん、結婚の日が来るまでには、この気持ちに区切りをつけなければいけないとは思うけれど――――。
「お待たせ、ナオ。すぐに始めてもいいかい?」
「はい。あの、それは……?」
部屋に戻ってきた青葉が、VR用のヘッドギアと検診用の医療器具が乗ったワゴンを押していたので、何が始まるのだろうと不安になる。
青葉が笑みを見せて言う。
「今日の『触診』にはVRと、いくつかの道具を使うよ」
「道具……」
「何も心配はいらないさ。きみの体のことは、私が一番よく知っているからね」
青葉が言って、ヘッドギアをこちらへよこす。
頭に装着すると、すうっと外界の感覚が遮断された。
目の前の青葉の姿が消えたので、VRの世界に意識が入っていったのだとわかる。
でも、それ以外は検査処置室にいるナオが現実に見ている風景と変わらない。インテリアホログラムも波の音も、青葉が何かの器具をカチャカチャといじっている音もそのまま聞こえる。
これは一体、どういう……。
「じゃあ、始めるよ。気持ちがよかったら、いつもみたいに声を出してもいいからね」
「は、はい」
ナオに触れる青葉の姿が見えず、声しか聞こえないのは、なんだか少し変な感じだ。
何をされるのだろうと、知らず身構えていると。
「……あっ」
ちゅぷ、という濡れた音とともに、生温かいものに乳首を撫でられて、思わず声を洩らした。
VRの映像では、ナオの淡いピンクの乳首がキュッと締まって勃ち上がる様子しか見えないが、いつものように指で触れられたのとは、明らかに感触が違った。
もっと温かく濡れていて、柔軟に形を変えるもの。
強いて言うなら、人の舌のような……?
「あっ、あん、は、ぁあっ……!」
ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てて、ナオの乳首に何かが繰り返し触れる。
それはやはり舌のような感触で、ツンと勃ち上がった乳頭を舐り立て、転がすみたいにもてあそんでくる。
まるで誰かが、ナオのそこに口づけて舐め回しているみたいだ。
「VR向けの触覚変換デバイス、初めて使ってみたけど、ちゃんと感じているようだね」
青葉が感心したように言う。
「今、きみの肌に実際に触れているのは、ただの計測器具だよ。でもきみの脳には別の感触として伝わっているはずだ。胸を口で愛撫されるの、悪くないだろう?」
「口で、愛、撫……?」
何を言われたのかよくわからず問い返すと、青葉が艶めいた口調で答えた。
「セックスのときはね、ナオ。体中にキスをするのさ。そうするととても気が昂ぶって、身も心も潤んでほどけてくる。まあ個人の趣味嗜好によって違いはあるだろうけど、胸はとても感じる場所だから、たぶん佐野もたっぷり愛してくれると思うよ?」
「ぁ、あっ! ん、ふっ、う、ぅっ」
先ほどから感じている「舌」だけでなく、「口唇」で吸いつかれるみたいな感覚があり、背筋に悦びのしびれが走ったから、知らず腰がうねってしまう。
青葉の言うとおり、胸はとても感じるところだ。そこをいじられるだけでお腹の底が熱くなって、ナオの雄蕊もピンと頭をもたげる。
左右の乳首をかわるがわる「舌」で舐められ、ちゅくちゅくと執拗に吸い立てられたら、ナオ自身の先端から涙が溢れてくるのがわかった。
「可愛いよ、ナオ。そんなにも、感じているのかい?」
青葉が言って、ふふ、と笑う。
「マシンでこんなに感じてしまうなら、佐野に触れられたら、トロトロになってしまうかもしれないね」
「あんっ、ああ、ああっ……!」
たらりと伝い落ちた蜜を舐め取るように、「舌」がナオの幹を舐り上げてきたから、たまらず声を上ずらせて叫んだ。
そんなところにもキスをしたりするのかと、驚いてしまったが、舐められたり「口唇」で吸われたりすると、そこは胸よりもさらに感じる。
ぬらぬらとした感触は卑猥で、何やら背徳的な気持ちにすらなるが、愛撫されるとすごく気持ちがよくて、後ろもジクジクと疼いてくるのがわかった。
(青葉先生も、誰かと、こういうことを……?)
青葉は独身で、恋人がいるとか、婚姻相手が決まったとかいう話は聞かない。
でも保護が必要なオメガと違い、アルファは子供さえ作らなければ自由恋愛が許されている。青葉はとても魅力的な大人のアルファ男性だし、もしかしたら過去に恋人くらいはいたのではないか。
そしてその相手と、こんなふうにセックスを……。
「あっ! はぁ、あん!」
胸を「舌」でなぞられながら、雄蕊に指を絡めて扱かれて、シーツの上で身悶えた。
乳首を舐め回す湿った「舌」の感触はヴァーチャルで、自らこぼした蜜で濡れそぼった幹を絞り上げる青葉の手は、物理現実だ。どちらもナオの官能をダイレクトに刺激して、悦びに溺れさせてくる。
「ぃいっ、せん、せ、きも、ちぃっ」
快感に酔って、回らぬ舌で悦びを告げる。
胸に口づける「口唇」も手の動きも、目では見えないせいで逆に強く刺激を感じられて、まるで本当に青葉に愛されているみたいな気分だ。
大好きな青葉に気持ちよくされることが嬉しくて、体中が熱くなって――――。
「あっ、ああっ、達くっ、も、達、ちゃぅ、ひ、ぁあ……!」
上体を大きく跳ねさせながら、ナオが頂に達する。
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