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第1話

春の風に桜が揺られ、新しい生活の始まりを告げる。空は晴れ、暖かな日差しの中、悠星のしている事と言えば。 「ふぁ、ああああ……ぁっ」 慌てて口を抑える。消化しきれなかった空気が腹ん中に残るが、今のはさすがに声が大きかったかも。ヤバイ。 肩を窄め、なるべく小さくなり、周りの視線から外れる。横目でそっと周りの生徒の反応を見るが、特に気にしてない様子。 ...はぁぁぁ、危なかったー... それもそのはず。今は高校の入学式真っ最中。ダラダラと続くお偉いさん達の話は苦痛で仕方ない。 やっぱどこ行っても偉い奴の話って長えんだな...あーダルすぎる...眠い... 再び意識がうつらうつらしてきた頃、隣に座ってる奴がふっと笑った。 「…眠いの?」 「!!」 目があったそいつは、大人っぽくてなんか優しそうな奴だった。しかし口元はずっとニヤけてる。 「べ、別にそんな事」 「さっきの欠伸ヤバかったね」 「っ!!……」 は、恥ずっ!!! しかし事実は事実。言い返せなくてふいと顔をそらした。 「あははごめんごめん、ねぇ、名前は?」 「…田口悠星(たぐちゆうせい)。お前は?」 「堤翔太(つつみしょうた)だよ。よろしく、悠星」 「よろしく」 ニカッと笑うそいつを見て、悪い奴じゃないんだなと思った。 入学早々、早速恥はかいたが、一応高校初めての友達が出来た。というのも、この高校は中高一貫だから中等部からの生徒が多い。 ぼっちにならなくて済みそうだ... ちょっとだけワクワク度が増した頃、プログラムは次の項目へと進んでいた。 「プログラム8番。生徒会長の挨拶です。生徒会長の安田雅樹(やすだまさき)君、よろしくお願いします」 安田、、、雅樹? 司会のアナウンスが入り、1人の男子生徒がゆっくりと壇上に上がっていく。圧倒的イケメンオーラを放つ生徒会長を見て、女子がちょっとだけ浮き足立った声をあげていた。 「あれ...」 「会長?イケメンだし何でも出来るから王子みたいだって言われてる。あぁ俺中等部からここいるからさ」 せっかく翔太が説明してくれたのに悠星は何も言えず、ただただ壇上の男を見上げていた。 「悠星?大丈夫?顔色悪い気が...」 翔太がそっと膝を叩いてこちらを見てきた。そこでやっと俺は我にかえる。 「あ、うん、大丈夫大丈夫...ははは」 愛想笑いは上手くいったのか。翔太はそこまで不振がる事なく、そう、と言ってまた前を向いた。 ...全然大丈夫じゃない。 あいつの名前を聞いた瞬間から心臓の音がやけに大きく響いている。 まさか。 そんなはずは。 だってあいつは。 俺はまた、逃げられないのか。 「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」 ニッコリと、爽やかな笑顔で挨拶をするそいつを見て、あの日々が蘇る。 逃げなければ。 捕まってはいけない。 裏切り者の、安田雅樹から。

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