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第88話
それはある日の放課後のこと。
悠星が、同じクラスの幸樹の家に行ったとき、彼がクローゼットの中を何やらごそごそし始めたのだ。
「幸樹どうした?」
健吾が訝し気に聞くと、目的のものを背中に隠した幸樹がニヤニヤと二人を振り返る。
「これ兄貴の部屋で見つけたんだけどさ…」
じゃん、と楽しそうに出したそれは、エッチな下着を着ているお姉さんが表紙の雑誌で………
「ぉぉぉぉぉぉ!」
「………!」
隣の健吾が小声だけどものすごく興味津々で見ていた。一方悠星は、どこに視線を向ければいいのか分からなくて、顔を赤くしながら勢いよく目を逸らした。
「やばくね?エロくね?」
「すげえなこれ…え、どこで買ったの?」
「知らねーよ、兄貴のだって言ったじゃん。あとこれバレたら怒られるから内緒な」
「おう、もちろん!」
「う、うん」
それから3人はドアに背を向けて座り込み、顔を突き合わせるようにして雑誌を覗き込む。結局恥ずかしがっていた悠星も、薄目で見るように雑誌を同じように見た。
「うわ…これやばいな」
「この女の子めっちゃおっぱいでかい」
「表紙の子だよ」
「まじか!あ、ほんとだ」
健吾はおっぱいの事しか言ってなくて、幸樹はどこか得意げに写真を見ながら説明をしている。
…こ、こんなんもう見えちゃうじゃん
なんでこんな際どいポーズしてるの!?
……いや、うわ、えっち……うわー!!
「…悠星はどの子が好き?」
「エッ」
過激な写真に内心あわあわしていたら、いつの間にか2人の視線が向けられていて。慌てて写真を指差したそこに映っていた女の子は、こげ茶のショートヘアで、優し気にこちらに向かって微笑んでいる。
…ふと見たその子の笑顔は、なんとなく雰囲気が雅樹を思い出させて………
「や、やっぱこっ……」
「どれどれ…おお、この子もおっぱいでかいな!やっぱおっきい方がいいよな!」
「そ、そうだね…」
結局訂正することは叶わず。罪悪感と気恥ずかしさを感じながら曖昧な笑みを返していると、幸樹が顔を更に寄せてひそひそと囁くように言った。
「…なぁ、お前らもう精通してる?」
その問いに、悠星と健吾は思わず顔を見合わせる。
「……この雑誌持ってきたのって…」
「…だ、だって急に言ったらおかしいだろ!で!どうなんだよ!」
顔を真っ赤にしながら焦る幸樹への返事は、健吾が先だった。
「俺はもうしてる」
彼の言葉に、幸樹と悠星の視線が思い切り向く。
「マジで!?」
「て言っても2.3ヶ月前だけどな」
「へぇ…」
友人の訪れていた変化に悠星はただただ関心するばかりだった。
「こ…幸樹は?」
悠星が恐る恐る聞くと、少しの間を空けて幸樹がほんの少し目元を赤く染めて呟いた。
「…おれも」
「おぉ、仲間だな」
「……よかったぁ、してる奴がいて」
「分かる、不安だよな」
「兄ちゃんに聞いても人によるから気にすんなって言われてさー」
「でも兄ちゃんに聞けて良かったじゃねーか。俺は父さんには聞きづらいし」
「あー…」
ポンポンと目の前で会話が進む中、悠星の内心ではどんどんモヤモヤが募っていく。
そっか…もんなもう来てるのか……俺いつになるんだろ…
「…い、ゆうせい?」
ぐるぐると考え込んでいると、健吾に肩を軽く叩かれた。ハッとして顔を上げると、不思議そうにこちらを見る二人の視線と目が合って。
「悠星?大丈夫か?」
「あ…うん…。えっと……俺、その…」
どう答えようか迷っていると、察した二人が「あ~…」と零して苦笑した。
「こればっかりはいつ来るか分からないからなぁ…」
うんうんと深く頷いて訳知り顔をする健吾を若干呆れたように見た幸樹は、今度はじっと悠星を見て口を開く。
「…じゃあ来る時の為に俺たちがヒギをさずけよう!」
「ヒギ?」
何かを企むように宣言する幸樹を見て、悠星は不思議そうに首をかしげる。
「初めての時はどんなか知っといた方が不安にならないだろ?」
「あ~」
「なるほどな!よし、悠星!男同士のヒミツだ!」
そうして健吾に肩を組まれた悠星は、両側から友人たちによってちょっと余計な知識も交えられながら、来るべき日の対処の方法を丁寧に教え込まれたのだった……。
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