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第87話
「雅樹!今日ヒマ?」
「ん、ゲームの続きやるか?」
「うん!雅樹の家行っていい?」
「もちろん、待ってる」
くしゃりと髪を撫でてくる雅樹の手をくすぐったく思いながら、悠星は頬を緩めて頷いた。
あの公園での出来事の後、悠星と雅樹の距離は一気に縮まった。ぎくしゃくしていたのが全くの噓のようによく話すようになったし、以前よりも更にお互いの家に行き来することも増えた。
そして何より――――…
「あっ、ずりぃ」
「へっへー、そりゃっ」
「ちょっ、悠星!」
悠星は今、雅樹の部屋で一緒にレース系のゲーム中だ。車体が右に左に動くのに合わせて悠星の体も右に左にと動いてしまうので何度か雅樹から苦情が来たものの、ゲームに夢中で3秒後には忘れている。
そして丁度レースがひと段落した時、おやつにしようと言って雅樹が席を立った。
「俺も何かする?」
「いいよ座ってて。すぐ終わるから」
そんな会話を交わしながら台所へ向かう雅樹を見て、悠星の口元はふと緩む。
こんな、なんてことない時間がすごく嬉しい。
ただゲームして、おしゃべりして、ってしているだけだけど。
それにこんなこと、他の友達ともやってるのに。
…"雅樹と"ってだけで、すごく心がふわふわする。
「おまたせー」
その声に慌てて顔を引き締めた悠星は、パッとテーブルの方を振り返る。すると、机の上に置かれたのはクリームがたっぷり使われていたチョコレートケーキだった。
「ケーキだ!どうしたの?」
「昨日母さんが買ってきてたんだよ。悠星と食べてって言われてたんだった。俺んちに来てくれてよかったよ」
「! ほんとだよ!忘れちゃダメだろ!あーよかった、食べれて」
「ははっ。だな」
「っ!」
雅樹の、以前とは違う自然な"笑顔"がとっても嬉しい。
でもなんでだろう。嬉し、ほんの少し緊張いはずなのに、笑った顔を見るたびに胸がきゅってなって顔が熱くなってしまう。
な…なんであんな嬉しそうに笑うんだよ!くそ、イケメンめ………
こんな自分の緊張とか照れてるのとかがバレたくなくて眉根を寄せて自分の膝をじっと見る。急にだまりこんだ悠星を不思議に思ったのか、雅樹がひょいと悠星と目を合わせるようにを覗き込んでくる。
「悠星?どうした?」
ぐっと顔を寄せられて顔を上げると、雅樹のキラキラした目に自分が映り込んでいるのが見える。
変に心配させたくなくて、でも本当のことなんか言えなくて、悠星は口をとがらせてふいと視線をケーキへと向ける。
「…ケーキ美味しそうって言いたかっただけ…」
ほんのりと頬を赤くしながら言う悠星の誤魔化しに、雅樹は彼の頭をぐしゃぐしゃにしながら笑う。
「ちょ、ちょっとっ!」
「はははっ、悠星は可愛いなぁっ」
「可愛くない!」
………最近の俺は何かおかしいんだ。
雅樹の笑顔を見るとちょっと胸が苦しくて。
なでられた感触が妙に残ってて。
一緒にいれるだけで嬉しくて。
そして――――…
お風呂に入って歯磨きもして、悠星は布団に潜り込む。雅樹に撫でられた感触がずっと消えなくて、そっと頭に手を持って行く。
ちょっと強引だったけど、優しい手だった。
俺と1歳しか変わらないのに子どもあつかいしてくるその手は、恥ずかしかったけど嫌じゃなかった。
……笑いながら楽しそうにこちらを見てくる雅樹の眼差しを思い出し、また顔が熱くなる。
もっと一緒にいたい。
もっと笑ったところが見たい。
もっと撫でられたい。
もっと………
「…ぁ、また…」
布団の中できゅっと体を丸めて足の間に手を挟む。目を固く瞑りながら、熱を持ったそこを押さえつけた。
この熱をどうやり過ごせばいいのか分からなくて、悠星はただひたすら丸くなっていた。
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