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第86話

「……ごめん」 「…」 「悠星が嫌いなわけじゃないんだ。むしろ一番好き」 「いちば…っ!?じゃ、じゃあなんで!」 「だって…」 お…思わず慌ててしてしまった。そんな真正面から言われると思わないじゃんか…! 耳の近くで雅樹の声がする。ちょっと低くて吐息の多いその声に、耳がどんどん熱くなる。 「な、なに?」 「いや……怖いだろ?」 「なんで?」 「本当は、悠星は俺とだけいてほしい」 今にも消えそうなその声に雅樹の顔を見ると、彼は眉根を下げて泣きそうになっている。なんでそんな辛そうな顔をしているのか分からなくて、悠星は戸惑ってしまった。 「雅樹…?」 「でも、悠星はもっと色んなやつと友達になりたいだろ?俺が近くにいたら、友達が増えないから…」 「…それで、俺から離れようとしてたの?」 「………」 ジト目で雅樹を見るが、彼はふいと視線を逸らしてしまった。 つまり、俺の事をひ…独り占めしたかったってこと? でも、それが出来ないから逆に離れるって? ………なんだろう、このモヤモヤ感…。最初はなんでなんでって、俺がなんかした?って不安が強かったのに、逆に今はこの顔にイライラする… 悠星も一緒になって黙り込んでいたら、今度は雅樹が不安になったらしい。そっ…と悠星の顔を覗き込むと、彼の目には怒った悠星が映り込んでいた。 「あ、悠星ごめんね」 「ごめんって何が?」 「え、いやだって…」 そんなにドスが効いた声だったのだろうか。 慌てる雅樹の様子に、ほんの少しだけ胸がスッとする。 …でもちゃんと分からせないと。 「…嫌わないで」 泣きそうな雅樹をじっと見ながら悠星は口を開く。 「嫌いじゃない」 「でも怒っただろ?」 「うん」 「ごめん」 「俺は、」 「…俺も、雅樹が一番好き」 「!」 バッと勢いよく顔を上げてこちらを見る 「だから、普通に話したいしもっと一緒にいたい。……ねぇ、俺は離れて行かないよ?」 首をかしげながら雅樹を見ると、一瞬ビクッとした後、じわじわと目が潤んでいく様子がよく見えた。 「大丈夫」 ぎゅっ、と雅樹を抱きしめると、おずおずと背中に手が回り、それから上着をきつく握りしめられた。 時々方が揺れているし、鼻をすする音も聞こえてくるから、…まあ、そういう事なんだろう。 悠星は雅樹の頭を撫でながら、好きにさせることにした。 俺達は、家庭環境も、不安も、よく似ていた。 大事な人が出来ても自分から離れていくことに怯えた。なら作らないようにしたけど、いつの間に懐に入り込んでいるものをそう易々と手放す勇気は無かった。 似すぎていたんだ。 だから、今日の事があって今まで以上に仲良くなるのは必然だったし、互いを特別に思うもの当然の流れだったと思う。 ―――――でも、 俺と雅樹は、出会わない方が良かったのかな。

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