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◯これは要らない。

「おーにーいーさぁーん」  うっせぇな、何だよ。知玄の馬鹿はドアの隙間からジトーッとした目でこっちを覗いていた。 「入りたきゃ入れよ」 「えっ、いいんですか! うほほーい、じゃあ失礼しますっと」  野郎の着替えなんか覗いて何が楽しいのかしらんが、知玄は正座でこっちをガン見している。着替えづらいったらありゃしない。だが、変に意識していると思われるのもなんか癪なので、そのまま着替えを続ける。  シャツに腕を通す。パンイチの時点から見られ続けていたのだが、シャツのボタンを留めているときが、謎に一番恥ずかしかった。何故なんだ。  ヘッドボードの抽斗を出して、ピアスを着け、指輪を嵌めて、それから……。金色の鎖の端と端をつまみ上げて、思った。これもう要らなくね?   ぶっとい鎖のチョーカー。首をガードするためのものだが、もうこの首を守ることはないんだった。だって、もう|番《つがい》の証は刻まれている。まぁ、こんなもんで貞操が守れるなんて思ったことはねぇけどな、俺は。 「ノリ、」 「はいっ、何でしょう!」  呼べば知玄はピンと背筋を伸ばしてハキハキと言った。つうか、こいつ、マジで何がしたくてここに居んの? 「やるよ」  チョーカーをぽいっと投げたら、知玄は軽く腰を上げて、難なく両手でキャッチした。犬みたいだ。だから犬みたいに喜ぶかと思ったら、 「えーっ」  何でそんな不満そうなんだ。 「要らねぇのかよ」  知玄が着けて似合うようなものではないと、俺も思うが、さっきから変態的に俺の着替えをガン見しているヤツだから、俺の身に付けていたものを貰えば変態的に喜ぶのかなと思ったら、違った。 「だってこれ、お兄さんによく似合います。僕はこれを着けているお兄さんが好きだな。すごくセクシーですよ」  それは褒めてんのか。褒めてるんだよな。貶し要素がないし、真顔で言ったし。そんな褒め言葉は要らねぇけど。 「お兄さん、これ僕が着けてあげたいです。いいでしょ?」  やっぱり変態だわ、こいつ。  俺が応える前に、知玄は素早くベッドに上がり、俺の背後に回り込んだ。鎖が後ろから喉仏の下にまわされる。鎖骨の上にずっしりとした重みが乗る。肩が凝りそう、と、初めてこれを着けてもらった時に思ったのを思い出す。 「出来ました」  柔らかい感触が傷痕の上に当たり、チュッと湿った音がして背筋がヒエッ! っとなった。 「傷痕にこの鎖……よく映えますね」  キモいこと言うな! 「でも肩が凝りそうです」  肩がわっしわっしと強めに揉まれた。別に凝っちゃいねえが、悪くはない感じだ。

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