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◯祭一日目の午後。

 茜の姿が見えないと思ったら、本部で老人達にお茶を出していた。 「茜、こっちに来な」  声をかけると茜は「はいっ」とやたら元気よく応えてきびきびと走ってきた。まるで知玄みたいだ。 「なんでしょう!」 「老人どもの相手はいい。そろそろチビ達が集まってくるから、公民館に集合させてくれ。お茶出しは智也(ともや)がやれ」 「了解です」  茜は弾丸のように走り去ったが、代わりに指名された智也は不満そうだ。 「なんで? 爺さん達も茜ちゃんにしてもらった方が喜ぶっすよ」 「だからだ。老人どもに旨い汁を吸わせるな」  一度いい思いをさせればそれが当然になる。来年も女手を出せと騒がれちゃかなわねぇ。ただでさえ町外へ出ていく女子が多いのに、老人どものセクハラがそれに更に拍車をかけることになる。 「お前がやらねえなら俺がやるよ」  俺が盆に茶碗を載せて行こうとすれば、智也は犬みたいにあとを着いて来た。智也はいつもこうだ。俺が何も言わなくても、勝手に下僕になっている。  一通りお茶出しをして公民館へ戻ると、茜は言われた通り庭に子供達を集合させていた。 「他に何かやることないですか?」 「とりあえず、特には。休めるうちに休んどきな」  若衆用のクーラーボックスから缶ジュースを取って、茜と智也に手渡す。三人で隅に座って飲んだ。 「今年は結構集まったっすね」 「いんや。ほとんど外から応募してきた奴らだ」  お囃子隊の子供達は町外の小学生ばかり。地元の奴は小学生が少数、中学生は篠笛吹きの一人だけ。こいつが十五になったら若衆に入ってくれればいいが、頭が良いみたいだから、受験だなんだって、来なくなるかもな。  本当なら俺は若衆の中でも中堅のはずなんだが、後輩が入って来ないせいで、いつまでたっても下っ端だ。「若衆」は若者の集団のはずが、人材不足のせいで一番上はもう四十を超えている。俺が抜ける番は、当分回って来そうにない。 「新しい家の子を勧誘したらどうっすかねぇ」 「無理だろ。寄付金のことで揉めるに決まってる」 「あー」  そんな話を興味深そうに聴いていた茜が、不意に口を挟んできた。 「寄付金って何ですか?」 「祭り運営のための寄付金。元々、この祭りは戦前からある旧い家の長男坊だけを集めてやってきてて、寄付金もそういう家から徴収してきたんだ。だから最近越して来た家からは取れないってこと」 「なるほどぉー」  茜はDr.スランプのアラレちゃんみたいに口を縦に丸くして言った。きびきびとよく働く子だが、喋ると間の抜けた印象だ。と、そこへ、 「お兄さーん」  更に間の抜けた声が俺を呼ぶ。なんかぞろぞろ引き連れてんな。俺より先に智也が立ち上がる。知玄にウザ絡みしよってんだろう。普段温厚な知玄も、智也にあいまみえれば、途端に険しい顔になる。厄介ごとにしかならねぇから、智也を止めるべく俺も立ち上がった。

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