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◯見られるのも悪くない。
屋台巡行が始まった時はまだ日があったが、今はもう辺りはすっかり暗い。予定通りだとすれば七時くらいか。屋台は中継地点の十字路に入った。お囃子隊は進行方向とは逆を向いていたのが、回り舞台がぐるりと百八十度回転して、十字路に集まった観衆に対面する格好になる。
太鼓はチビ達が叩いている。俺は屋台を降り、他の奴らと手分けして、観衆に酒やジュースを注いで回る。
屋台を見上げる観衆の中に、知玄 と真咲 達がいた。
「お前も飲む?」
俺がビール瓶を差し出すと、知玄はぶんぶんと首を横に振った。
「いいです、僕、未成年なんで」
そんなん知ってらぁ。オレンジジュースを注いでやれば、知玄は「ありがとうございます、いただきます」と他人行儀に言って紙コップを掲げ、一気に飲み干した。
「楽しんでるか」
「はい、お兄さんカッコいいです」
俺は祭りのことを聞いたのに、知玄は俺に対する感想を述べた。
「つか、俺まだ叩いてねぇし」
「チビッ子達の側について指導してるとこ、カッコ良かったですよ」
あぁ。チビ達の太鼓はほっとけばどんどん前のめりに速くなっていくから、大人が横に着いて一緒に歌ってないとダメなんだ。今も屋台の上ではおっさん達が、声を枯らしてテレスクテンとやっている。
「お兄さんはこれからですか」
「おう、こっからは大人の時間だ」
ここで、屋台を牽いたり後を着いてきたりしてきた観衆も、半分くらい帰っていく。知玄達ももう引き上げるそうだ。
「お菓子貰った?」
「えへへ、貰えました」
知玄は小脇に抱えていた菓子の詰合せを、照れ臭そうに見せた。タダで貰った時より嬉しそうな顔をしてやがる。菓子は毎年余りが出るから、親父が家で留守番する知玄の為に、二つ三つ持ち帰ってきたものだ。俺はどちらかといえば、タダで菓子を貰える知玄のことが羨ましかったが。
屋台に上がり、チビ達と交代する。大太鼓に智也がつき、俺は二十代の奴ら四人で四つ並んだ締太鼓につく。おっさんチームには敵わないが、チビ達よりはマシに叩けるし、若い奴は並んでるだけで見映えがいいとかで、観衆が沸く。
屋台の上は提灯の明かりに照らされているから、下を見ても闇の底に沈んでいて、誰がどこにいるのかよく見えない。だがそこにいると思って見れば、見えるもんだな。
変な感じだ。ガキの頃にお囃子に入って、もう何年も太鼓をやっているが、下を気にしたことなんか初めてだ。見てほしいとか、それ以前に見られてると思ったことなんか、一度もなかったし。
桴 を振り上げ、足を踏み込みながら振り下ろす。余所者の茜が初見で「風流だ」と評した、音を鳴らすより格好つける方が大事なのかって感じの所作だ。
熱心な視線を感じる。嬉しい、なんてことがあるのか。こんな、ただ押し付けられた役をやってるだけのことが。来年こそ太鼓を辞めて、裏方にまわりたいんだけど。
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