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◯熱に浮かされて。

 自分がしんどいからというより、知玄に心配されるのが面倒で、親父に話をつけた。俺の代打として高志さんに来てもらうってことで。はぁ、持つべきものはプータローの先輩だな。  携帯を畳んだか畳まないか、それくらいのタイミングで意識がとんだ。  頭が重いのに、身体がふわふわして、暑かったり寒かったり。毛布を蹴飛ばしたと思ったら、いつの間にかすっぽりくるまってたりして。少し寝て、目が覚めての繰り返し。外からプラントの出す騒音と蝉のやかましい鳴き声が聴こえてくる。うるせえなぁと思いながら、目を閉じている。  夢を見た。暗闇の中にテレビが点いている。野性動物のドキュメンタリー番組だ。俺は毛布に鼻の上までくるまってそれを観ている。こういう番組、久しぶりに観るよなぁ、と思う。家でも元カノの家でもダチん家でも、お笑いとかバラエティー番組ばかりだった。 「痛い?」  声は、背中に寄り添う胸から、心地よい振動として伝わってくる。 「いや。ただ、脚が寒かっただけ」  俺がそう答えると、あいつははだけた毛布を丁寧に掛け直した。再び毛布の下に手が這い込んできて、俺の腿を擦り、そして俺の中に指を挿し入れた。  身体の内側が熱い。中をかき回されると、声が勝手に出そうになる。 「そろそろベッドに移るか」  テレビは点けたままで、あいつは俺を毛布ごと抱き上げた。ソファの背後に隠されるように置かれたベッドに降ろされる。仰向けになって、相手の首に腕を回して受け入れる。ゆっくりと揺らされるのに身を任せながらも、声を漏らさないよう奥歯をキツく噛み締めた。よがったぶんだけ「Ωになる」と信じていた。今でもわりと信じている、かも。  あいつに抱かれると、男としての格の違いを思い知らされる。気遣いの細かさとか、そういう部分で。でも「アキはそうならなくていい」とあいつは言った。Ωはただ受け入れていればいいんだと。それが無性に悔しかった。だけどあの頃は、色々ムカつくことの多い日々を過ごしていたから、つい、甘やかされるがままになっていた。  こんな夢を見るって、相当弱ってるのかな。  沢山汗をかいてべたべたな額に、冷たいものが押し当てられた。濡れタオルで顔を丁寧に拭かれる。瞼が冷やされると気持ち良い。もっとして欲しくてタオルを持つ手を掴んだ。この感触、お袋じゃないな。 「お兄さん」  知玄か。ずっとそこにいたのか? 聞こうとしたが声が出なかった。目を開けると知玄の顔が思ったより至近距離にあった。 「だいぶ顔色が戻りましたね」  言われてみれば、寝る前より身体が楽になったようだ。俺が頷くと、知玄は満面の笑みを見せた。 「ところでお兄さん」  知玄は俺の手元を指差して言った。 「もしかして、電話かメール待ちですか? ずっと携帯、握り締めてますけど」  いいや。お前が側にいてくれるんならいいんだ。俺はシーツの上に携帯を置いた。

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