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◯今年の目標は。

 酒も煙草もやらない不便さを、正月二日から思い知らされ、挫けそうだ。親類が大集合した本家の宴席で、俺は食いたくもねえご馳走を、ひたすら口に詰め込んだ。そうでもしねぇと、間が持たねぇ。  ロースハムを茶で流し込んでいる最中、肩をツンツンとつつかれた。誓二(せいじ)さんだ。この人、毎年正月は日をずらして来るのに、今年は珍しく親戚一同に紛れている。 「ちょっと出ようよ。外の空気に当たろう」  席を外すいい機会だ。俺は立ち上がり、誓二さんのあとに着いていった。 「もっとこっちに寄れば?」 「断る」  煙草をくゆらす誓二さんから、一間くらいの幅を取って俺はしゃがむ。だが食いすぎて腹が苦しくて、すぐに立つ。 「アキが禁酒禁煙だなんてね。どういう風の吹きまわしだか」 「番も出来たことだし、真面目に生きることにしたの。将来を考えて、貯金もしなきゃ」 「Ωはそんな心配、しなくていい」  誓二さんはぴしゃりと言った。またそれだ。ムカつくなぁ。 「与えるのはあくまでαの役目。Ωはそれを喜んで受け入れ、子を産み育てることに注力するのが務めだ。弟を立派なヒモに育て上げることではなく、ね」  そういう嫌味を、穏やかな笑顔を崩さずに言う。 「あんたには関係ないだろ」  一々、真っ向から突っかかるなんて、反抗期のガキみたいでカッコ悪いと自分でも思うが、なんかつい、イライラしちゃうんだよな。 「今は、Ω特有の情がお前を支配しているだけだ。なあアキ、本当は分かってるんだろう。お前の真の相手は俺だって。運命の番の絆は、何びとにだって切れやしないよ」  反応するな、自制しろ。この人の言う世迷言なんか、言い返す価値もねぇ。この人は本気で俺のことが欲しい訳じゃない。ただ、自分が今までの人生で沢山のものを無くしたことを、「無くした甲斐があった」と思いたいだけなんだ。「運命の番」を得られれば全てが上手くいくって信じてるだけ。運命なんてそんなもん、あるわけがないのに。  誓二さんは革靴の爪先で煙草をもみ消すと、ゆっくりした足取りで、俺に近づいた。 「悪かったよ。長い間、寂しい思いをさせて」  まるでガキにするように、誓二さんは俺の頭の上に大きな手をぽんと置く。 「でも信じてくれ。それはお前を正式な番として迎えるための、準備をしていただけだから。年内にはお前を番にするのが、俺の2004年の目標」  無理矢理にはしないから安心しろと言って、誓二さんは踵を返した。母屋に戻る誓二さんと入れ違いに、知玄(とものり)が玄関から出てきた。 「お兄さーんっ」  犬みたいにダッシュしてきて、俺がよろけるのにも構わず飛びついてきた。 「お兄さん、初詣に行きましょう!」 「お前、昨日ダチと年越し初詣に行ってたじゃん」 「お兄さんとは“初”詣でしょ」  なんて言って、知玄は着ていたダウンを脱いで俺の肩に羽織らせた。我らが氏神のボロい神社まで、ほんの数分の道程を、俺達は歩き出した。

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