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2章 第35話

 世良と話したことで気分が回復したのか、それ以降はこれといって大きく情緒が乱れることもなく、また平和な日常が戻って来た。といっても半分ほどではあるが。これまでバタバタしていて考えることがなかった両親の死は、世良の言葉である程度前向きにとらえられている。誰かの何気ない声が救いになることがあるとはよく言うが、あれはなかなか的を射ていると思う。 「はっ、ハア、ハーッ、ハーッ……プハッ……しんど~い!」  ぼんやりと汗を拭って思考を整理していれば、隣で苦しそうに息をしていた頼人が大きな声を上げた。そちらへと目線を向ければ、ぐでっと全身から力を抜いた友人が溶けている。今はちょうど合同体育の時間。体育会の出場種目に沿ってそれぞれトレーニングをすることになっていて、頼人と俺は二人三脚の練習中だった。  脚を縛らず走るリズムを揃えてある程度息を合わせる練習や、体力づくりが主な内容だが、他のクラスが何故かガチなメンバーが揃っている為、俺の足を引っ張ってはいけないとクラスから圧を掛けられた頼人は暇を見つけては体力を作ろうと自主的にトレーニングに励んでいるらしい。  元々が引きこもりのインドア派であることを考えれば十分すぎると思うが、彼はまだまだ足りないと考えているのだろう。泣き言を言いながらも、足の速さは変えようがないからと色々試行錯誤しているようだ。とはいえ、周囲の出場者に比べれば俺たちはかなり息が合っている方ではないかと思う。 「ますみん、なんで、そんなに体力あるの……?」 「……さあ、父譲りなんじゃね?」  ぐでっとしながら絞り出された声に少々考え込んでから首を傾げつつ答える。何を隠そう亡くなった父はかなり社交的な性格で友人が多く、銀行員という真面目な職でありながら多趣味で、読書や映画鑑賞と並ぶくらいに身体を動かすことが大好きな人だった。休みの日はよく遠くまでドライブしたし、家族三人でスポーツ施設に行くこともしばしば。近所でも有名な好青年というイメージは高校生の時から既にあったらしく、大人になってからもそれが崩れることはなかった。  子煩悩で優しく、母と同じ感動屋な一面があって、体力的なところが遺伝するかはさておき、顔立ちや読書好きと言った俺の趣味趣向は父の物を継いだといっても過言ではない。それは、運動が好きという面であってもだ。  あとは、まあ、父の底なしの体力に付き合っていればこのくらいは屁でもないというところもある。 「あー、もう吐きそーう」 「大げさな奴だな、お前……さてと、俺はリレーの練習にも参加しなきゃいけねえからそろそろ行くわ」 「……たいりょくおばけ~」 「お前がなさすぎるだけ」  立ち上がって大きく伸びをすれば、げっそりした頼人が揶揄うかのように告げる。はは、と思わず声にだして笑いながら、ひらひらと手を振れば、大きく息を吐いた頼人はへらっと笑ってがんばれ~と手を振り返してきた。

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