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妄執 2-2

 睡眠は唯一ひとりきりになれる貴重な時間だ。  孝司はシーツに包まり、うつろな浮遊感を存分に味わう。明日は何をされるのだろうか。考えたくもないのに、頭の中で仁科という男の存在が大きくなっていく。  頭を撫でられる奇妙な感触を覚えたのはその時だ。 「長瀬……」  仁科だ。孝司を呼びながら髪を撫でている。  気持ち悪い。身体がこわばらないようにするだけで精一杯だ。  仁科に気づかれないように、孝司は寝たふりを続けた。  もし起きていることが知られたら、厄介なことになるだろう。仁科は何かぼそぼそと話し続けているが、孝司には聞き取れない。  監禁されてから二日間。仁科は孝司の髪を切り、黒く染めさせた。目的はわからないが、仁科の思い描くように事が進むのは腹立たしい。  仁科に髪を染められた後、孝司は鏡を通して自分と二度目の対面をした。鏡の中には一年前の自分自身がいた。慣れないスーツを着て、へらへら愛想笑いをしていたあの頃の自分が。周りからあいつとよく似ていると言われた自分が。 「――――委ねればいい」  その言葉が聞こえた途端、額に何かが触れる。 「……っ」  仁科の唇だと気づき、孝司は思わず肩をすくめたが、仁科は何もなかったかのようにそのまま部屋を出て行った。  孝司は仁科の唇が触れた額を何度も拭い、必死に彼の痕跡を消そうとした。

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