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狂想 17-1

「元気だなあ、長瀬くんは」  十も離れていないのに、仁科は孝司の姿を見ると自分がどっと老けたように感じるときがある。 「なあ、孝司。私は君のために何かしてやれたかな?」  仁科は誰に聞かせるでもなく、そう問いかける。  目線を下した先には真新しいネームプレートに『営業課主任 仁科智』と書いてある。  ――この私が営業……それも復帰後早々に主任だとは、上もなかなか悪趣味だ。  一連の事件から二年後の春。仁科智の営業課にふたりの新入社員が加わった。  ひとりは坂本貴久。  そして、もうひとりは――。 「――本日より営業課に配属されました、長瀬孝司です。よろしくお願いいたします」  少し照れながらもはつらつと挨拶をした愛しい恋人を、仁科は眼鏡の奥の優しい瞳で迎え入れた。 了

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