2 / 134

プロローグ

雲ひとつない、突き抜けるような碧い空。 緩やかな風が、涙で濡れた頬を撫ぜ、 長い栗色の髪をなびかせる。 園庭にひっそりと佇む裏庭。 青々と芝生が茂り、 鮮やかな黄色のタンポポが、所々咲いていた。 そこだけが、唯一のオアシス。 心をリセットする大切な場所。 みんなが知らない、自分だけの隠れ処(かくれが)。 「………ひっく……うぅっ……んっ、んぐ………」 また、いじめられッ子に苛められた。 悔しくて、悲しくて…… いつものように、体を縮こませ、声を圧し殺して、そこで泣いていた。 気が済むまで泣いたら、気持ちが落ち着いて、いつの間にか涙は止まってた。 膝を抱えたまま、泣き疲れてぼーっとして、頭の中は真っ白で…… 硬い殻に覆われたダンゴムシみたいに、小さく小さく丸まっていた。 微かに草を踏みしめる、小さな足音が聞こえた。 近付く足音と影の方へと、顔を向けた。 ふわりと二人の間を、暖かい風が吹き抜けた。 そこに現れた、見目麗しい男の子。 太陽を背に、キラキラと輝いて眩しかった。 綺麗な顔を恥ずかしそうに綻ばし、 摘みたてのタンポポの花束を、 俺の前に差し出してきた。 「柚希ちゃん…大きくなったら、僕と結婚して下さい」 5歳の春。 保育園で年長になった、初日の出来事だった。 俺、内海柚希(うつみゆずき)は 王子様にプロポーズをされた。

ともだちにシェアしよう!