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1 ~柚希 side~【第一章】
中学1年の10月半ば。
秋晴れで清々しい天気。朝は冷え込んで肌寒くなってきた。
学校では生徒会選挙の投票が、まだ終わったばかりだ。
金曜日からの曾祖母の忌引きが明け、土日と休んだから、4日ぶりの登校になる。
教室に入り、窓際の自分の席へとゆっくりと進む。
「えっ……内海?」
「何あれ。急にどうしたの!?」
「目立たない奴は何やっても、パッとしねーなぁ」
クラスメートがザワつき始め、刺さるような視線に晒される。
怪訝そうな顔の優等生
バカにしたよう嘲け笑う連中
チラチラと除き見てる奴
ーーあー、うるさい……
椅子にもたれかかり、纏わりつくようなうるさい視線を紛らわすように、スマホとワイヤレスイヤホンを取り出し音楽を聴く。
喧騒が遮断され、心地の良い音だけが頭に響く。
自分だけの空間にいられる、このひと時が好きだ。
「何聴いてるの?」
伸びてきた手が片方のイヤホンを取り、形の良い自分の耳へとはめる。
隣の席の声の主は無視されても尚「俺もこの曲好き」と話を続ける。
「ピアス開けた?似合ってる」
目を細めながら、俺を見つめる隣人を無視する。
「ミルクティーベージュの色、綺麗。美空(みく)ちゃんと髪色もお揃いで余計に見分けつかなくなるね」
母親の美空のヘアカラー剤を使ったから、言われてみれば同じ髪色だ。
そうでなくても、地毛も栗色で同じだ。
どうせ染めるなら、違う色のが良かったのかもしれない。
「……かけんな…」
「ん、何?」
「俺に話しかけんなよ」
「柚希…?」
「お前とは友達でも何でもねぇから」
教室が水を打ったように静まり返る。
「柚希どうしたの?なんかあった?」
彼は少し傷ついたような、悲しそうな顔をしていた。
それでも朗らかに笑う顔を見てしまうと、胸がズキリと痛む。
いつも俺の事を気遣って優しくしてくれる。
席も家も隣同士で、幼なじみの有働陽人(うどうはると)。
世界一優しくて、明るくて頭も良くて、整った顔立ちで最高にかっこいい。
学級委員長をしていて、中1でサッカー部のエース。
俺にとって太陽のような人。
大切でかけがえのない人。
ーーだから、俺みたいな疫病神は、陽人の近くにいちゃいけないんだ。
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