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27 ~柚希 side~

陽人が涙を流す所を、見るのは初めてだった。 子供の頃から一度だって、陽人が泣いてる所を見た事がなかった。 「柚希……この間の男に、また酷い事されたんだね?」 そう言い終えると陽人は、俺の顔を暫く見ていた。 嘘が下手だから陽人にいつもバレるけど…… 柊に抱かれた事は、どうしても話したくなかった。 知られたくなかった。 この間は紛れもないレイプだ。 でも、今日は俺が快楽に溺れて、逃げる事が出来なかった…… だから……“合意”で、した事だ。 なんて返そう…… 誤魔化さなきゃいけないのに…… 何も思い浮かばない。 動揺して狼狽えて、無言のままでいると…… 陽人の瞳から、涙が一筋零れ落ちた。 明るくて優しくて、みんなの中心にいる陽人。 泣いてる人を慰めてる所や、うっすらと涙ぐむ姿は見た事があるけど…… 陽人が泣いてる所を見るのは初めてだった。 いつだって、太陽みたいに明るい笑顔で、周りを元気付けていた。 そんな陽人が俺のせいで…… 俺の為に…… 泣いている……… 『ごめん……はると…………』 伝えたいのに、喉が締め付けられ、言葉が出てこない。 怪我してない方の腕が伸びてきて、優しく抱き寄せられた。 陽人の優しい香りと温かい体温に包まれる。 張り詰めていた気持ちが解け、止まっていた涙が再び溢れ出す。 泣いてるのがバレないように、腕の中で必死に声を圧し殺した。 「俺……頼りないかもしれないけど……柚希の事、守るから……絶対、守るから。……だから、一人で抱え込まないで……」 「はる…と……」 「柚希が……すごく大切だから………傷付いてる所見て…何も出来ないのが、本当に悔しい……ほんの少しでいいから……俺の事、頼ってよ………」 巻き込みたくなかった。 俺一人でどうにか出来ないのは、もうわかっていたけど…… 陽人に迷惑をかけたくなかった。 それでも、涙声で真摯に訴えてくる陽人の言葉が、心にじんわりと浸透してくる。 陽人の気持ちも痛い程わかった。 大切な人を守れない辛さ。 目の前にいるのに、何も出来ないもどかしさ。 俺が甘えたら、陽人は少しは楽になるのかな。 そんな風に思うのは、俺のただの傲りかもしれない。 そう思いながらも、陽人の背中に腕をまわし、覚悟を決めて気持ちを口にした。 「…………リハビリ……してほしい………最後まで…して…ほしい……」 静寂の中に、俺の声が響きわたった。 陽人の優しさに応えたかった。 陽人に縋り付きたかった。 穢れた身体を、陽人に塗り替えてほしかった。 「…………柚希……本当に…いいの?」 「陽人に、忘れさせてほしい……」 「………………わかった。嫌だったら無理しないで。途中でも、いつでも止めるから……」 「んっ。その時は、ちゃんと言う……」 抱き締める力が強くなる。 頭を優しく撫でられ、頬にそっと手を添えられる。 親指で濡れた頬を軽く拭うと、顔の向きを変えられ、ゆっくりと陽人の顔が近付いてきた。 唇にじんとした熱が触れ、甘く痺れる。 ーー陽人……陽人が好き……好きだよ………… 唇が離れ、目と目が合う。 すごく優しい目で、うっとりと見つめられた。 「柚希………」 陽人は何か言いたげな顔をしている。 それでも言葉はないまま、再び唇が引き寄せられるように近付いて、重ね合わさる。 暫くの間、啄むように優しく、角度を変えながら何度もキスを繰り返した。

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