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目覚めると、陽人の腕の中だった。
狭いベッドの中、腕枕をされながら抱き締められるように寝ていた。気を失ってそのまま寝てしまったみたいだから、腕枕されてた事は目を覚ましてから初めて知った。
片手を怪我してて辛い筈なのに、一晩中腕枕してくれていた事に、悪いなって気持ちと嬉しいって気持ちが入り交じっていた。
裸と裸で抱き合うようにして朝を迎えた事に、本当に一夜を共にしたんだなって改めて実感した。
ーーあっ……学校!
時計を見たら朝の5時過ぎだった。今の時期、外はもう日が照って明るい。
今日は火曜日、平日で学校がある。
制服やスクールバッグは陽人の家だし、いくら泊まるからって連絡していても、学校なのに戻らなければ久実さんだって心配する。
それに、こんな風に腕枕されて寝てる所を、もし美空に見つかったら、なんて言い訳すればいいかわからない。
いつもみたいに幼なじみ同士、仲良くじゃれ合ってるだけだって思ってくれればいいけれど……
今の陽人と俺は、多分そんな風には見えない。
陽人は仰向けで俺に腕枕しながら肩を抱いて寝てるし、俺は陽人の方を向いて胸の上でしなだれかかり腰に手を回してる。しかも、二人とも裸だ。
どう見ても、体の関係があったようにしか見えない。
大人にわからないところで子供同士が、しかも男と男でセックスをしたという事に、後ろめたい気持ちはあった。
それでも、陽人とセックスしたという事に、何一つ後悔はなかった。
陽人が泊まるのはいつも、週末や長期休暇の時だけだ。
翌日に朝早くから部活の練習や試合、生徒会の仕事がある時は泊まらないで帰ってる。
平日に泊まる事なんて初めてだったし、学校に遅刻するような事があれば、泊まり自体禁止になってしまう。
陽人が毎日のように遊びに来たり、週末泊まれるのは、久美さんとの約束事を一度も破らず、きちんと守ってるからだ。
だから、絶対に学校に遅れる訳にいかない。
ーー早く陽人の事、起こさないと
「陽人、おはよ。起きて、家に帰らないと。学校、間に合わなくなるって」
「んっ……柚希…おはよう」
陽人は寝惚けた顔で俺を見ると、腕枕をしてた方の手でグイッと引き寄せ、キスをしてきた。
「……ちょ、はる…やめろって……!」
「柚希の顔見たら…昨日の事思い出して……収まらない……」
「んっ……ンン……ダメ、ダメだって……美空いるし……」
軽いキスを何度かした後、舌を入れて朝っぱらから濃厚なキスをしてきた。
隣の部屋には美空が寝ている。聞こえる筈はないけれど、やはり意識してしまう。
「わかってる。キスだけ。いいかな……?」
「もう、しただろ……」
「もっとしたい」
また、この目だ。熱っぽい眼差し。
俺はこの目に弱い。
「しつけーよ。……ちょっとだけ…だからな」
「わかった」
押し切られ受け入れた形だったけど、本当は内心キスしたくてドキドキしていた。
陽人はこんな俺の気持ちわからないし、わからなくていいと思ってる。
再び唇が重なり、身体がじんと熱を持つ。
熱い舌に触れると、昨日の事を思い出し、力が入らなくなる。
学校とか、男同士とか、友達同士とか……
キスをしている間はそんなしがらみがだんだん薄れ、身体が疼いてセックスの事しか考えられなくなる。
一線を越えるだけで、こんなに気持ちや関係が変わるだなんて思わなかった。
キスも特別だったけど、身体を交える事はもっと特別な事なんだってしみじみと感じた。
柊のせいで恐怖でしかなかった、性行為。
好きな人と抱き合う事が、こんなに幸せで尊くて、気持ちが良いものだなんて、今まで知らなかった。
キスだけでも陽人が恋しかったのに、身体を重ねると愛しくなった。
行為がある前よりも、もっと、気持ちが深くなった気がする。
陽人も一線を越えた事で、以前とは変わった。
なんとなく積極的で、ちょっと強引だ。
今までは、ただ慰める為だけの行為だったリハビリが、別の意味合いも含んできてるみたいで……
勘違いかもしれないけど、陽人自身が俺の事、求めてきてくれてるのかなって。
そこに愛はなくて、情や欲だけだとしても、陽人に求められる事は嫌じゃなかった。
「ンンッ……も、長いって……!終わりにしろよ……」
「ふふっ……ごめん」
それまでのキスの激しさがわかるように、二人の唇と唇の間に銀糸が引いていた。
糸を絡め取るように、俺の唇を親指で拭った。
そのまま見つめられると、キスが終わってしまうのが名残惜しかった。
陽人を帰さなくちゃいけないって、わかっている。
わかってはいるけれど、まだまだ一緒にいたかった。
ーー学校じゃ、陽人の側にいられない…………でも……
「早く行けよ。遅刻するって」
陽人は「あっ!」という顔をすると、時計をチラ見しながら、慌ただしく服を着始めた。怪我で上手く手を動かせないから、着替えを手伝てあげた。
着替え終えると、陽人は颯爽と立ち上がり、ベッドの端に座っていた俺の方へ、柔らかい笑顔を向けた。
「じゃ、また学校で」
「ま、学校じゃ喋んねぇけどな」
寂しげな顔を隠すのに、精一杯作り笑いしたけど、多分顔は引き攣っていた。
無理矢理笑ってる俺の顔を見て、陽人は屈んで顔を近付けてきた。
そして、「もう一回だけ」って言うと……
チュッと小さな音を立てて、触れるだけのキスをしてきた。
「柚希、またね!」
輝くような満面の笑みを浮かべ、陽人は急いで帰て行った。
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